特集「祝! コカ・コーラ120周年」

中本 晋輔

コカ・コーラは今年生誕120周年を迎える。これは歴史上のコーラとしてはもちろん最長であり、現存する黒い液体としてもキッコーマン、ドクターペッパーに次ぐ快挙である。

この記念すべき節目の年を祝って、日本コカ・コーラは例年にない大規模なキャンペーンを展開した。


120周年キャンペーンが公式に発表されたのは2月14日の事業戦略説明会。日本コカ・コーラの魚谷社長は06年の商品戦略としてコカ・コーラを中心とした炭酸飲料の復権を推進すると宣言。その軸となるのが生誕120周年記念キャンペーンだった。

印象的だったのが、専用にシンボルを作って視覚的イメージの統一を図った点(右図)。これまでキャンペーン用のキャッチコピーなどは使われてきたが、シンボルまで起こすのは稀だ。コカ・コーラの本気度を伺わせた。

この発表で、具体的なアクションとして(1)COKE EXPO と(2)記念缶の発売 の2つが明らかになった。特に前者は「コカ・コーラの復権に向け、「コーク・プリーズ」をキャッチフレーズに五月から全国主要都市で展開する試飲会」と位置付けられており、これまでにない試みとして注目を集めた。

記念缶

先陣を切ったの250ml記念缶だった。コカ・コーラは3月に第一弾として初代缶「シングルダイヤモンド」(1965年発売)のデザインを踏襲した記念缶をリリース。コカ・コーラ初の復刻デザイン缶で、そのシンプルなデザインは現在においては斬新に映る。昨今250ml缶を扱う店が少ないことから入手が難しく、オークションなどで比較的高値(註2)で取引されたことは記憶に新しい。

次いで4月には昔の広告をデザインした350ml記念缶8種類が発売された。図案に選ばれたのは主に19世紀〜20世紀前半のアメリカのポスターで、有名なNormal Rockwallの作品も含まれている。

またホブルボトルに似せた500mlのPETボトルも同時期に発売された。過去のポスターをスクラップブックのように集めたデザインの特別仕様だったが、こちらはあまり話題にはならなかったようだ。やはりPETボトルはコレクター心を擽らないのだろうか?

250ml復刻デザイン缶
350mlポスター缶
500ml記念PETボトル

オンパックキャンペーン

4月からはCoca-Cola, Diet Cokeの500mlPETを対象に「コカ・コーラメモリアルコレクション」のオンパックキャンペーンがスタートした。ボトルや昔のディスペンサー・デリバリートラックなどクラシカルなコカ・コーラのキーチェーンコレクションで、全部で24種。昨年の公正取引委員会からの注意(註3)の余波なのか、すべてクリアーケース入りになった。

これと同時期に自動販売機の300mlボトル缶を対象にした「メモリアルボトルコレクション」のオンパックを実施。賞品は歴代のコカ・コーラボトル4種(ハッチンソン・ストレートサイド・)の真鍮製のキーホルダーで、ボトルの歴史を簡単に綴ったミニ冊子が付属する。アクセサリとしてはかなり小さいが真鍮製で程よい重さがあり、個人的にお気に入りのアイテムである。こちらはラッキー缶方式(自販機の缶にランダムに入っている、いわゆる「あたり」つき)だった。

メモリアルフィギュアコレクションのパッケージ
メモリアルボトルコレクション 10円はつきません。

また一部自販機ではコカ・コーラのディスプレイに特別なデコレーションを施して「120周年記念コーナー」のように仕立てているものも見られた。

COKE EXPO

本キャンペーンの目玉がこのCOKE EXPO 2006である。当初試飲会と発表されたが、実際は「見て(History)!遊んで(Play!)飲む(Drink!)」をテーマにした複合型のロードショウである。

特設ラウンドテントの中にはサンプリング(試飲)コーナーはもちろん、過去のノベルティを集めた「History コーナー」、イベントスペースである「Play & Fun コーナー」、環境面などを取り上げた「これからのコカ・コーラコーナー」などコカ・コーラのブランドを凝縮したような内容になっている。

Historyコーナーでは時代別に様々なノベルティが解説付きで展示されており、中でも日本のグッズを集めたディスプレイが興味深い。ボトルのキーホルダーやダルマボトルといった懐かしいアイテムから近年のキャンペーンアイテムまでそろった姿は壮観だ。テンポラリとは言えコカ・コーラが主催して自社の歴史を紹介する場を作ったことは高く評価できる。

Play & Funコーナーではヨーヨーのデモンストレーションや景品がもらえるコカ・コーラクイズ大会、過冷却冷蔵庫を使ったシャーベット状の「新感覚コカ・コーラ」などイベントが目白押し。全国13会場で行われ、先着で会場オリジナルのヨーヨーが配布された(→特集おまけ「突撃! COKE EXPO in 大阪城公園 幻のヨーヨーを求めて」参照)

「コカ・コーラの復権」の意味

近年まれに見る規模で行われた今回の一連のキャンペーンは、一貫したテーマとメッセージを持つレベルの高いものであった。大小様々なキャンペーンを織り交ぜて旗艦製品の120周年を効果的に露出させた手腕は流石であり、そのインパクトはグローバルキャンペーンのサッカーW杯をはるかに上回るものだった。

しかしこのキャンペーンで「コカ・コーラの復権」が達成できるかといえば、私は懐疑的である。

復権という言葉の裏を返せば、コカ・コーラが既に清涼飲料の中心にいないということである。引きずり降ろしたのはペプシではなく、近年国内市場で急速に成長した緑茶飲料やニアウォーターといった新興勢力だ。消費者の嗜好が多様化した結果様々な新しい清涼飲料が誕生し、コカ・コーラは以前のような絶対的な存在ではいられなくなった。

今回の一連のキャンペーンに共通するのは1970年代以前の古き良きコカ・コーラの香りである。アメリカの「黄金の日々」のイメージを積極的に用いたり歴史を取り上げすぎた結果、、どこか回顧主義的でコンサバティヴなキャンペーンになってしまった印象がある。

今コカ・コーラが日本で本当の意味での復権を果たすために必要なのは過去の栄光ではなく、時代に即した柔軟さや消費者をあっといわせる新製品ではないだろうか。


ちなみに今年、大規模な生誕120周年キャンペーンを展開したのは世界でも日本と台湾くらい。PEPSICoに売上で逆転を喫した米国や激戦の続く欧州に、節目を祝う余裕はないのかもしれない。


(註1)キッコーマンは創業1600年、ドクターペッパーは1884年発売。他にもあるかも。

(註2)500〜1000円くらい。発売中の記念缶にこの値段がつくことは少ない。

(註3)昨年9月には公正取引委員会がガンダムのブラインド方式のオンパックを「懸賞品」と判断、景品表示法(過大景品)に違反する恐れがあるとサントリーを注意した。それ以来コカ・コーラ、ペプシとも中身が見える形式を採用している。


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