コーラ白書
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ミリエンダはコーラとバナナで「第4回 人工甘味料の謎」

なかはしいちろう

所変わればコーラも変わる?

Royalフィリピンのコカ・コーラ社の製品にRoyalという炭酸飲料があります。日本で言うところのファンタ・オレンジのようなものだと思えばいいでしょう。当地ではCoke、Spriteと共に大変ありふれたもののひとつです。

このRoyalを飲む度に気になっていたのが、その後味です。ローカロリー飲料でもないのに、人工甘味料の味が感じられる。そんなに強いものではありませんが、少なくともそれと分かる程度には、です。

原材料表記を見てみたところ、次のようになっていました。

CARBONATED WATER, SUGAR AND/OR HIGH FRUCTOSE CORN SYRUP, CITRIC ACID, STABILIZER, PRESERVATIVE, FLAVORS, EMULSIFIER, SWEETNERS ACESULFAME K AND NEOTAME, ASCORBIC ACID, AND ARTIFICIAL COLOR.(炭酸水、砂糖及び/もしくは高果糖液糖、クエン酸、安定剤、保存料、香料、乳化剤、人工甘味料(アセスルファムK、ネオテーム)、ビタミンC、合成着色料)

「ACESULFAME K AND NEOTAME」とありますから、やはり人工甘味料が含まれているようです。「ACESULFAME K」(アセスルファムK)はDiet CokeやDIET PEPSIでもお馴染ですね。しかし、「NEOTAME」は聞きなれない甘味料です。

新人工甘味料ネオテーム

この「NEOTAME(ネオテーム)」、2002年にFDA(アメリカ食品医薬品局)に認可された比較的新しい人工甘味料のようです。アジアでは中国、インドネシア、タイなどでも使用が認められています。日本でも近いうちに食品添加物として指定される見込みです。

ネオテームの甘味は重量比で砂糖の8,000倍。供給元(The Nutrasweet Company)の資料によると、12オンス(約350ml)の清涼飲料水に必要なネオテームの量は6mg 。また、香りを強調するフレーバーエンハンサーとしての働きもあるようです。

ネオテームの化学構造式
ネオテームの化学構造式

化学的な構造はアスパルテームと似ていますが、安定性が改善され、高温・酸性などの状況でも分解されにくくなったようです。そのため、アスパルテームでは不可能だった焼き菓子(クッキーなど)への使用も可能です。もしローカロリーコーラに利用すれば、賞味期限を引き伸ばすことができるかもしれません 。味についても、Royalの仕上がりを見る限りは悪くないと言えそうです。

そんなわけで前途有望に見えるネオテーム、フィリピンや日本のローカロリーコーラに使われる日も近いのではないでしょうか。

カロリーなんて気にしない?

Pop colaネオテームについてはともかくとして、実はもっと大きな謎があります。それは、どうしてRoyalに人工甘味料を使う必要があるのか、ということです。Royalは別にローカロリー飲料でも何でもありません。不自然な味になってしまうリスクを冒して人工甘味料を使う理由は全然ないように思えるのです。

実はレギュラーコーラの中にも人工甘味料を使ったものがあります。それがPop Colaです。原材料表記は次のようになっています。

CARBONATED WATER, SUGAR, CARAMEL COLOR, FLAVORS, PHOSPHOLIC ACID, CAFFEINE, SODIUM BENZONATE AND ASPARTAME(炭酸水、砂糖、カラメル色素、香料、酸味料(リン酸)、カフェイン、保存料(安息香酸ナトリウム)、アスパルテーム)

Pop colaは8オンス(約240ml)で8ペソとCokeより3割ほど安い廉価コーラで、正直あまり上等な飲み物とは見なされていないようです。もちろんカロリーに関する表記はありません。大抵の人は人工甘味料が使われていることさえ知らないのではないかと思います。

粉ジュースフルーツ味の粉ジュースにも人工甘味料が使われています。試しに幾つかの銘柄の製品を購入してみたところ、いずれもアスパルテームが使用されていました。

フィリピン人は甘いものが大好きなので、このような粉ジュースを表記の処方通りに調製すると頭痛がするくらい甘くなります。でも、ちゃんと人工甘味料の味がするのです。

一体ぜんたい、これらの商品に人工甘味料が使われている理由は何なのでしょうか。しつこいようですが、カロリーオフを狙ったのではないことだけは確かです。

■仮説1:暑いから

この問題について幾つかの仮説を考えてみました。ひとつめは「暑いから」。フィリピンのような高温多湿の環境では、砂糖のコクはくどく感じられるのかもしれません。そう言えば私も、「夏はPEPSI、冬はCoke」と思っていた時期がありました。汗ダラダラの時はPEPSIのすっきりした甘さが、冬はCoca-Colaのどっしりとしたコクが好ましく思えたわけです。

砂糖の使用を減らし、人工甘味料を使えば、味は淡泊になります。フィリピンの灼熱の太陽の下では、その方が喉越しに心地よいと感じられるのかもしれません。

■仮説2:安いから

直感的にはピンと来ないかもしれませんが、冷静に考えるとありそうなのが「人工甘味料の方が砂糖やシロップより安いから」という理由。実際に検証してみましょう。

独立行政法人農畜産業振興機構の統計資料 によると、2007年3月、ニューヨーク市場での砂糖相場は平均1ポンドあたり11.44セント。換算するとUS$0.26/kgということになります。

一方、人工甘味料の価格についてははっきりとしたデータが得られないのですが、2005年5月12日付の食品化学新聞によると、アスパルテームの市場価格は6,000〜10,000円/kg。

これだけを見ればアスパルテームの方が遥かに高価に見えますが、実際にはアスパルテームは砂糖の300倍の甘さを持っています。砂糖1kgと同等の甘味を得るのに必要な金額を比較すると、

砂糖:US$0.26
アスパルテーム:US$0.16〜0.28
(USD1=JPY120として換算)

となり、実はアスパルテームの方が安くつく可能性が出てきます(中国産のアスパルテームがさらに安価に出回っているという話もあります)。ネオテームはアスパルテームよりさらに一桁以上甘味が強いので、もっと安上がりかもしれません。

◇ ◇ ◇

きちんとしたデータがないので、これはあくまで仮説です。でも、状況から判断して、結構当たっているのではないかと思います。

貧乏人は人工甘味料のコーラを飲み、その儲けは先進国の会社の懐へ。なんだか釈然としない気持ちになるのは、私だけでしょうか?