コーラ白書
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コーラ津々浦々「サンフランシスコ 72時間タイムアタック」(1/3)

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中本 晋輔

BARTの薄暗い改札を抜けると、階段の向こうに雲ひとつない青空が広がっていた。すぐ前には大勢の観光客を乗せたケーブルカーが小気味よい鐘の音を響かせて坂道を登ってゆく。

これまで外国を旅してコーラを買ったことはあったが、それらは全て観光旅行や出張のついでに過ぎなかった。今回は生まれて初めて、純粋にコーラを購入するためだけの目的で単身アメリカへやってきたのだ。サンフランシスコを選んだのも関空からの直行便に空きがあったというだけの理由だが、それでもこの街はそんな酔狂な旅人を歓迎してくれているようだった。

今回の旅の目的は二つ。ひとつはコーラ白書のデータベース更新のため、米市場にある最新のパッケージを可能な限り入手すること。折りしも07年はコカ・コーラ、ペプシともメイングラフィック更新の年。特にポートフォリオの刷新を進めるコカ・コーラのニューデザインは押さえたいところだ。

もうひとつは6月発売予定の最新ダイエットコーラの動向を探ること。今年アメリカのダイエットコーラはパラダイムシフトの真っ只中にあると言われており、市場の要求が「砂糖不使用のコーラ」という従来の概念からより特徴のある製品へ移りつつある。既にコカ・コーラは「Diet Coke Plus」、ペプシは「Diet PEPSI MAX」の投入を発表しており、この新しい流れをこの目で見ておきたいと思ったのだ。あわよくばこの2品を持ち帰りたいが、後者は出発日の時点でも発売日が確定しておらず、私は気が気でなかった。

◆ ◆ ◆

リュックを背負い、ほとんど空気しか入っていないウィールドダッフルを引きながら坂道を登る。このTumiのダッフルはソフトバッグながら下が硬質のボックス状になっていて、そこに350ml缶が縦にぴったり入る。空の缶を凹ますことなく輸送できるというスグレモノだ。この鞄が帰りにどれだけ膨らんでいるかが旅の成果の指標となるはずである。

今回の宿はユニオンスクエアを臨む老舗Chancellor Hotel。今回は任務の遂行のため、設備や環境より利便性を優先する必要があると判断した結果である。

ホテルに着いたのは朝の11時だったけれど幸い部屋の準備ができていて、その場でチェックインできた。古めかしいがよく手入れされたホテルで、部屋は清潔で気持ちがいい。高い天井にゆっくり回るシーリングファンや引き上げ式の窓、テーブルにおかれたカラフルなキャンディの詰まった壜をみて、自分がアメリカにいる実感がはじめて湧いてきた。

今回の旅程は3泊5日。3日後のこの時間には空港に向かわなければならない。与えられた72時間でどれだけのコーラを集められるか、勝負はすでに始まっているのだ。

出発前の殺人的な引き継ぎスケジュールのおかげで離陸を覚えていないほど爆睡してきた私に、時差ボケという足枷はない。手早くシャワーを浴びて貴重品を金庫に放り込むと、早速散策に出かけた。

物量の壁

まず目指したのはフィッシャーマンズ・ワーフ。サンフランシスコを代表する観光地で、レストランやコンビニ・スーパーなどが比較的多いエリアだ。特にスーパーの飲料棚はその土地の市場の縮図であり、概要を理解するのに最適な場所。真っ先に押さえておきたいポイントである。

地図上でホテルの前のPowell St.を北上するだけと気軽に出発したのだが、すぐに何故この通りにケーブルカーが走っているかを理解する。急なのだ、勾配が。まるで登山のような前傾姿勢で坂を上るのは、エコノミークラスでなまった体にはいささか辛い。

それでもNob Hillあたりまでくればサンフランシスコの町を一望することができ、ちょっと報われた気分になった。

このPowell St.は有名なチャイナタウンの西端を通っているため、所々に中華系の商店を散見する。その一つに古いペプシの冷蔵庫をみつけ、中に入ってみた。

小さな日用品店で偉そうに鎮座する冷蔵庫には、手書きの「汽水」の文字。中にはペプシだけでなく、コカ・コーラやエナジードリンクなどもごちゃ混ぜに詰まっている。このあたりのいい加減さがいかにもチャイナタウンらしくて嬉しくなる。

今年ペプシは缶のパッケージグラフィックを公募するという前代未聞のキャンペーンを展開中で、無数のバージョンのペプシコーラが市場に溢れている。記念缶のコンプには興味はないが、それでもNBLの缶には食指を動かされた。これも何かの縁と一つ購入。

ちなみにチャイナタウンには古いペプシの看板が多い。何か歴史的な背景があるのだろうか。

◇ ◇ ◇

Nob Hillの丘を越え住宅街を海に向かって降りていくと、左手にスーパーマーケットのSafewayが見えてきた。

米国では食料品店の住み分けが進み、生鮮食品やデリを含むスーパーマーケット、薬と食品・日用品を扱うドラッグストア、より手軽に入れるコンビニというシステムが成立している。今回見て回った限りではスーパーはSafeway、ドラッグストアはWal Green、コンビニはセブンイレブンが幅を利かせていた。日本と違って明確な縄張りがあるのかもしれない。

Safewayは巨大なスーパーであった。そしてその飲料コーナーのスケールもハンパではなく、20mほどの棚が全て清涼飲料で埋まっている。

コカ・コーラは新ブランドCoca-Cola Zeroを中心にラインナップを充実、Coca-Cola Zero VanillaやZero Cherryといった派生商品が生まれていた。これはZeroを中心に新たなプラットフォームを作ろうとする同社の戦略なのだろう。C2と比べればその本気度は明らかだ。

もう一つのダイエットブランドDiet Cokeもパッケージを一新、同じファミリーのDiet Coke Cherry、Diet Coke Limeと全て同系統のグラフィックに統一されていた。これまでの商品・フレーバーの縦割りからCoca-Cola, Zero Dietの横割りへと大きく方針転換を図っている。

またフレーバーのトレンドにも変化が見られた。この数年はレモンやライムといった柑橘系フレーバーがブームだったが、現在残っているのはDiet Coke Limeのみ。これに替わって一昨年生産終了したVanilla CokeがCoca-Cola Vanillaとして復活していた。またCherry系に至ってはCoca-Cola Cherry、Coca-Cola Zero Cherry、Diet Coke Cherryと3種類のラインナップという充実振り。


Coca-Cola Zeroのフレーバーコーラ

Diet PEPSI Jazzの新フレーバー"Caramel Cream"

ペプシもDiet Pepsi JazzシリーズにCaramel Creamというこれまたこってりフレーバーを追加、甘味系フレーバーコーラが復活を遂げていた。

またエナジードリンクも健在で、一時期ほどではないにせよ確固たる勢力を築いていた。昔はコーラの仲間だったTaBや、脇役的存在だったMountain Dewなどが軒並みエナジードリンク化。親友がしばらく見ない間にグレてしまったような、少し悲しい気持ちになった

Safewayの充実振りはアメリカのコーラ市場が隆盛であることを雄弁に物語っていた。これはコーラを研究するものとしてはとても喜ばしいことであるが、実際問題としてこの状況を手放しで歓迎することはできなかった。いや、むしろそれは絶望の始まりといってもよいだろう。

昨今アメリカのスーパーでは飲料は12本まとめ売りが基本。プラスチックで上を留めた6缶パックならこっそり1つもぎとっても大目に見てもらえるが、箱にきっちりとおさまった12個パックでは缶のばら売りはまず不可能だ。

ここは資本主義の国。ここにあるコーラを全て箱買いすれば問題はすべて解決である。全て買ったとしても$70弱なので、決して払えない金額ではない。しかし問題はその圧倒的な物量なのだ。10x12=120缶のカサ、そして60kgを超える重量を前に旅人はあまりにも非力である。太平洋戦争でこの国と戦った旧日本軍もこんな気持ちだったのかもしれない。

箱買いせずにこのコーラをコンプリートする方法はただ一つ、ばら売りしてくれる店を根気よく探すしかない。SafewayにはGo2Colaというプライベートブランドコーラもあるが、そんなものを買っている余裕はないのだ。また今回の目的の一つであるDiet Coke Plusとdiet PEPSI MAXの姿もなく、引き続き捜索せねばならない。

何も買わずというのは悔しいので、エナジードリンクコーナーにあったCoca-Cola BlaKの4本セットを購入して、先を急いだ。

◆ ◆ ◆

フィッシャーマンズ・ワーフに着いたのは1時をかなり回った頃だった。Pier 41から漂うシーフードの香りで急に空腹を覚えた私は、とりあえず名物のクラムチャウダーで気を落ち着かせることにした。

普段あまりサワーブレッドは好んで食べないのだが、クラムチャウダーの容器としてはこれ以上の食材はないのではないかと思う。むしろこのためにこのパンは存在するといっても過言ではあるまい。シーフードに合わないCoca-Cola BlaKを片手に、隙あらば寄って来る鳥どもをけん制しながらバリバリと昼飯を喰らう。

しかしいつまでたってもクラムチャウダーの食べ方が上手くならないのは仕様だろうか。

クラムチャウダー

ジョルトは何味?

腹が膨れて一休みしたい気分だが、あのスーパーの棚を見た後では観光気分に浸る余裕はない。幸いこのあたりは何度か来た事があるので、おおよその店の場所は覚えている。まずTaylor St.のセブンイレブンに立ち寄る。

カウンターの広いアメリカンスタイルのコンビニで、明るく入りやすい店である。飲料棚でDiet Coke PlusのPETボトルを発見。アメリカで主流の591mlのデカサイズだ。データベース的には缶のほうが良いのだが今はコーラの確保を最優先。青りんごといっしょに購入。

次はひとブロック西にあるドラッグストアWal Green。棚の間が狭く買い物しづらいが、品揃えはセブンイレブンの比ではない。飲料棚もコカ・コーラ、ペプシ、エナジードリンクと区別されていて分かりやすい。

そのエナジードリンク棚にJolt Colaを発見!独自のバッテリー缶は695mlと手に余る大きさだ。お値段も$2.99とかなり高い。

Joltを抱えていそいそとレジに行くと、50代くらいのアジア系の女性店員がレジを打ちながら不意に聞いてきた。

「これは何味なんだ?」

急な質問に戸惑う私。

「最近買っていく人が多いんだけど、甘いのか?酸っぱいのか?」

Joltの味を形容するほどの英語の語彙を持っていない私は、「エナジードリンクみたいな強い味(strong taste)のPOPだ」とテキトーに答えてその場を切り抜けた。

そんなに気になるなら飲んでみればいいのに。

◆ ◆ ◆

ずっしりと重くなったリュックを背にワーフの散策を続ける。この絵葉書やTシャツ・アルカトラズグッズを扱う土産屋が続く中に一軒、気になる店を見つけた。何が気になるって、コカ・コーラに囲まれたブッシュ大統領(の等身大看板)がお出迎えなのだ。

倉庫を改造した天井の高い店内には古き良きアメリカンブランドのグッズが所狭しと並ぶ。多くはコカ・コーラ、ペプシ、バドワイザーなどの版権物だが、中には昔の記念ボトルやアンティークなども扱っている。

特にペプシのロングネックや1992年の100周年復刻ボトルセット、エルヴィスのミニチュアボトルなど珍しいペプシのアイテムが充実していた。

個人的に気になったのはプレスリーが死んだ日の新聞。ずいぶん古びて黄色に変色した一面にはエルヴィスの死を悼む記事で埋まっている。面白いけどお値段一部$21はちと高い。

午後四時を回った頃に急激に電池が切れてきたので、捜索を打ち切って一旦ホテルへと戻り2時間ほど昼寝をとる。このChancellor Hotelの唯一の不満は冷蔵庫がないことだ。普段なら気にならないものの、今回の旅ではそのコーラの多さゆえ現地での試飲をしなくてはならない。仕方がないのでワイン用のバケツに氷と水を入れて、今夜試飲するコーラを無理やり詰め込んでおいた。

余談であるが最近PETボトルは現地で試飲・撮影し、ワインのようにラベルをはがして持って帰るようにしている。PETは缶に比べて容量が大きく重い事と長期保管に向かないのがその理由だが、問題はその撮影である。いつも使っている撮影セット(=コムサのランドリーボックス)を持って来れないので、浴槽の蛇口と反対側、つまり背中のあたる部分のゆるやかなスロープを使って無影撮影を行っている。

このホテルは浴室のライトが明るくバスタブが白いので撮影に十分耐えるものなのだが、奥行きが狭い。ライブビューのない一眼レフでコーラを真横から撮影するには私自身がほぼ逆立ち状態でシャッターを押さなくてはならない。息を切らせながらバスタブから足だけ出した姿は決して他人には見せられない。

◆ ◆ ◆

サマータイムのためサンフランシスコは7時になってもまだ明るい。小腹が減ったのでなにか名物でも食べてやろうと外へ出たが、結局ケーブルカー駅近くのCarl's Jr.に落ち着いた。プラスチックの椅子に腰掛けて4番セットとフライドズッキーニを食べていると、無性に寂しい気分になる。沢木耕太郎氏が著著の中で、一人旅で一番困るのが夕食だと書いていたのを思い出す。しかし相変わらずジュースのカップがでかい。

帰りにドラッグストアWal-greenを覗いてみると、PEPSI Summer Mixという見慣れぬコーラを発見。期間限定のトロピカルフレーバーのようだが、ネットで話題になっていなかったので存在すら知らなかった。米ペプシコもサントリー流に限定ペプシを出すようになったのだろうか。

思わぬ収穫はあったものの本命のDiet PEPSI MAXは見つからなかった。

部屋に戻ってヨメと世話になった会社の人に絵葉書を書くと、TVを見ながら今日の戦果を一つづつ味わう。深い紺色に染まった窓の外からは街の喧騒に混じって、ケーブルカーの鐘の音が時折聞こえてきた。

本日のジュース
LIPTON Diet Green Tea with CITRUS

セブンイレブンで捕獲したリプトンの新作。緑茶なのにダイエットを謳う理由は人口甘味料(アスパルテーム)を使用しているからだ。その上シトラスフレーバーと称してレモンとライムをぶち込んだ、日本人の想像をはるかに超えるハイブリッドお茶だ。伊藤園には決して作れない怪作である。

LIPTON Diet Green Tea with CITRUS

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