コーラ白書
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中本 晋輔

「寒ぃ」

飛行機から降りた瞬間、思わずそうひとりごちた。日本ではこの週末に大寒波がやってきてこの冬一番の冷え込みになるという。そこを間一髪脱出し、沖縄より南の此の地でぬくぬくと過ごす予定だった。しかし空港の温度計は、関空のそれとあまり変わらない一桁の数字を指している。

「今日は今年一番の冷え込みですよー!もう風邪引きそです」ガイドの彭さんが良く通る声で教えてくれた。なんでも昨日までは20度近くまであったらしい。ターミナルの扉の前で送迎の車を待っていると、彭さんが心配そうに言った。

「中本さん、そのかっこ寒くないですか?」

仕方なく、鞄の奥底にしまっておいたダウンジャケットを引っ張り出した。

 


 

台湾に来るのは実は今回が初めてだ。関空から飛行機で2時間半。この最も近い外国の一つに今まで足が向かなかったのは、周りの人からたくさんのお土産話とコーラを頂いて「いったつもり」になっていたからかもしれない。今回も初めは国内旅行を探していたのに、いつの間にか行き先が台北になっていたという感じだ。

マイクロバスに揺られて空港から台北市内のホテルへ向かう。車が右側通行ということを除けば、車窓からの景色に全く違和感がない。山がちの国土やアパート群など、なんだか親しみを覚える風景ばかりだ。

MRT中山駅の近くのホテルにチェックインしたのはもう夕方の頃だった。今回の旅程は2泊3日だが、最終日のピックアップは5時45分。つまり実質一日強しか時間がないのだ。アップグレードしてもらった(ラッキー!) 居心地の良い部屋でしばしくつろいだ後、台湾の有名な夜市なるものに出かけることにした。

 

夜の食の祭典

剣澤駅のホームに降り立つと、目の前に喧騒に包まれたひときわ明るい建物が忽然と姿を現す。台北最大の夜市といわれる「士林観光夜市」だ。大きな建物の周りには屋台やアトラクションが並ぶ姿はさながらサーカスのよう。8時を過ぎているというのに回りは人で溢れ、信号を渡るのも一苦労するほど。

建物の中は一坪くらいの屋台的な店舗からテーブルと椅子を揃えたレストランまで様々な食べ物屋で埋め尽くされていた。麺・飲茶・一品物からデザートまであらゆるジャンルの台湾料理が揃っていて、その香りが渾然一体となって空気を埋めている。店と店の間の細い通路は人で溢れ、威勢の良い声が飛び交う。すごいエネルギーだ。

その雰囲気に圧倒されながらも中を歩き回っていると、日本語のメニューを持った鉄板焼き屋のおばちゃんに呼び止められた。「ぎゅうにくめん」なるものが美味しいので食べていけという。ちょうどお腹も空いていたので薦められるままに座り、おススメの一品を頼んでみる。

コーヒーのような真っ黒い汁の「ぎゅうにくめん」は飛びぬけて美味しいという訳ではなかったが、夜市の雰囲気に慣れるのには十分だった。「ぎゅうにくめん」は一杯38元(約120円)で、ここでは高級な部類に入るようだ。また手振りとゆっくりと日本語を話すことで最低限の意思疎通ができることも分かった。

 

ワラジから揚げ

慣れてくると、ここがとんでもなく楽しい場所であることが分かった。細い通路の両脇にはラーメン屋や点心屋といった屋台的な小さい店舗からテーブルセットをいくつも揃えたステーキ(排骨)レストランまでありとあらゆる台湾の食べ物が格安で手に入るのだ。テンションが上がらないわけがない。

ウィンナー屋で焼いてもらった妙に甘いソーセージ的なものを食べながら歩き回っていると、行列のできている小さな店を見つけた。何がそんなに人気なのかと覗いてみると、客の手には一様に長さ30センチくらいある巨大な楕円形の揚げ物が握られている。いったい何の肉なんだ!?これは確認するしかない。

最後尾に並んでいると、お店のひとが数を確認しにやってきて注文数の紙袋を渡される。待つこと10分、ようやく店の前にやってくるとそこには例の楕円型から上げが山積みされた光景があった。店の前の親父が巨大なから揚げをつかみ、慣れた手つきで私の紙袋に入れてくれる。希望すれば一味のようなスパイスをかけてくれるようだ。

実際に持ってみると、予想以上の大きさでずしりと思い。上のほうは骨がなく巨大なマックチキンのようだが、下半分は骨っぽく食べれる部分は思いのほか少ない。看板は「」と謳うし、食べた感じも鶏のそれなのだが、どうやったらこんな形状になるのかどうしても理解できない。

まさか鶏をプレス機にかけているんじゃ・・・

 

梅子可楽30

現地の人に混じってワラジ的なからあげをバリバリ食べていると、無性に喉が乾いてくる。と、隣の店の派手な看板が目に留まった。

ここの夜市にはフルーツをその場で絞ってくれる「ジュース屋さん」が何件かあるが、コカ・コーラ社製品も扱うこの「現打果汁」は看板にコカ・コーラのボトルが大きく描かれている。しかし私の心を捉えたのはその大看板ではなく、その下の退色した電飾板に描かれた商品だった。

 

梅子可楽 30。

一瞬普通のコカ・コーラかと思ったが、それはもっと安い値段で売られていた。梅子可楽の隣にはスプライトバージョン「梅子雪碧」もあり、どうやらこの店のオリジナル商品であるらしかった。ご当地コーラとあっては飲まないという選択はない。

30元と交換になみなみと注がれたコーラが手渡される。一口飲んでみたところ、別段普通のコカ・コーラと変わらない。しかし飲み進むにつれて、後味に妙な違和感を覚えるようになった。はじめは一緒に食べてるから揚げのせいかと思ったけど、カップの中を良く見るとなんか白っぽいものが。

結論からいうと、梅子可楽というのは干しウメ入りのコカ・コーラであった。 冷静に考えれば読んで字のごとく、である。

 

フレーバーとしては意外性があって面白いのだけど、なにせ干しウメがごろんと入っているので時間とともにウメの味が濃くなってくる。その上コーラは減ってくるので加速度的にウメの勢力が増大し、最後はただのウメジュースみたいになってしまった。

 


その後も夜市で屋台のはしごをして回った。名物の臭豆腐やワンタンなど一通りのものを食べて回ったが、中でも一番美味しかったのが水煎包だった。これは小さな中華まんのような食べ物で、大きな蒸篭で豪快に蒸されている。具は野菜と春雨だけの至ってシンプルな構成だが、謎めいた揚げ物や梅子可楽で麻痺しかけた舌に優しく染みわたる滋味であった。

ぎゅうにくめん 
ソーセージ屋 照明は電球型蛍光灯のエコ仕様
リンゴ飴?屋 なんでも飴化される
優勝の野菜水煎包。価格も10元と良心的。

 

一通り食べたところで時計は10時を回っていた。興奮冷めやらぬままMRTで食の遊園地を後にした。

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