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Cola Collectibles / 引き揚げ品コークボトル
中本 晋輔

ボトル 1910年代に偽物対策として導入されたコカ・コーラのホブル瓶。ややすれば不便で重いこの歴史の遺物は現在ではコカ・コーラの象徴となり、人々に愛され続けている。色々な国で様々な種類のものが作られ、中にはコレクター間で信じられないような値段で取り引きされるものまである。そんななかで今回紹介するのは何の変哲もない古めかしい、しかし大変興味深い歴史をもったボトルである。

1941年に始まった第二次世界大戦は、東南アジアを戦禍に巻き込んだ。特に43年のガダルカナル陥落以降、同地では日本軍と連合軍との激しい殲滅戦が展開された。そんな中連合軍、とりわけアメリカ軍の兵士達の心の支えとなったのがコカ・コーラであった。アイゼンハワーの有名な台詞「弾薬とコークを送れ!」からもわかるようにコカ・コーラは当時重要な軍事物資と位置付けられ、米政府も各地に工場を建設し生産体制を整えていた。今回のボトルはビスマルク諸島・エミウラ島で米軍兵士に供給されたものである。 [コーラの歴史 第5回 コカ・コーラ,戦場へ行く]

特に興味深いのは、このボトルがビスマルク諸島沖の海底から発見されたという点である。同地には日本軍の東南アジア最大の拠点・ラバウルに近いこともあり、激しい消耗戦が繰り広げられた場所。数え切れないぐらいの艦船や航空機が現在でもこの付近には沈んでいるという。このボトルはそのような中のひとつから引き揚げられたものであるらしい。

現在のホブル瓶に比べて肉厚で、重量感があるのが特徴。 ロゴ は印刷ではなく浮き彫りのようになっている。昔のガラスボトルには緑がかったものが多いが、こちらは完全に透明。ただ光を反射させるとかすかな赤色が見えるのでそれほど純度の高いガラスではなさそうだ。心なしかボトルの底も水平ではなく傾いており,戦時中の乱造ぶりを思わせる。

ロゴ 下には BOTTLE PAT. D-105529 の表記があり歴史を感じさせる(ボトルの製造に何らかの特許が関与しているのだろう)。海の底にあっただけに保存状態はそれほど良くなく、内側の細かい傷や汚れのために擦りガラスのような風合いを見せている。容量は6オンス(約177ml)。

はこだてBAY このボトルにはニューアイルランド自治区観光庁発行の 鑑定書 が付属しており、本品がウミエラ島で米軍兵士に供給されたものであることが証明されている。また当時のビスマルク諸島の情勢の簡単な解説もあり、大変面白い。これが本当に海底から引き揚げられたものであるという確証はないが(私もちょっとだけ疑っている)、少なくとも第二次大戦中アメリカ軍兵士たちを支えた歴史の一部であることは間違いなさそうだ。たまにはこんな古ぼけたボトルを手にしながら半世紀前の南洋に思い馳せるのも悪くない。

函館の「はこだてBAY」の雑貨店で購入。価格3000円也。


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