中本 晋輔
オーストラリアといえば言えばコアラ、オージービーフ、そしてアルコールプレミックスコーラ(APC)である(当社調べ)。今月の「津々浦々」でも触れたようにアルコール+コーラの組み合わせはこの地で独自の発展を遂げ、いまやオーストラリアのアルコール業界で確固たる地位を築いている。大手リカーショップ「Corks」では缶飲料棚の1/4をこの種のコーラが占拠していて、いかに人気が高いかがお分かり頂けると思う。
今回の特集では現在オーストラリアで発売されているアルコールコーラ10種類について、その傾向や味に対するレビューを行った。
APCはバーボンやラムといったアルコールとコーラを文字通り「前もって混ぜ合わせた(pre-mixed)」もののこと。要するにコーラ割りである。ただ日本のものと決定的に違うのはちゃんとコーラを使っている点、つまり砂糖が入っていることである。だからオーストラリアのアルコールコーラはやたら甘いのが特徴だ。またカフェインもしっかり入っているのでコーラ独特のかすかな苦味がある。缶の内容表記には日本のようなアルコールについての注意書はないが、「CONTAINS CAFFEINE(カフェインを含む)」は大きく表示されている。
で、肝心のコーラであるがこれは砂糖と炭酸にカラメルと香料を少々加えただけのような感じでレベル的にはスーパーのコーラとあまり変わらない。コーラの味については各社それほど努力していないというのが率直な感想だった。
これはべつに手を抜いているとかではなく、APCではなんと言っても酒が主役であるからだろう。使用したウィスキーやラムの格がそのまま格を決めるといっても過言ではない。だから各メーカーはアメリカやスコットランドの有名な酒を使用することに力を入れており、なかにはジャックダニエルやジョニーウォーカーを使ったものまである。これらは日本でいうサントリーローヤルなどと同じ価格帯で、お父さんがちょっぴり奮発して飲むクラスである。
この銘柄依存の傾向はデザインにもよく表れている[写真]。ほとんどの製品では元の酒のラベルやトレードマークをそのまま使用しており、その下に申し訳なさそうに「Cola」と入っている。上級クラスのAPCになるとオリジナルの瓶を模したボトルに入っていることもあり、一見しただけでは区別が難しいほど。
APCの価格は375mlでA$3.00〜4.75(195〜310円)くらいで、オーストラリアのコカ・コーラが自販機でA$1.20であることを考えると少々高い。値段にはばらつきがあるがこれは使用している酒の種類によるもので、当然オリジナルが高価なほど高くなる。Fig 1はJACK DANIELユS・WILD TURKEY・JOHNNIE WALKER(赤)・MALIBUについてオリジナルとコーラの価格を比較したものである。縦軸はオーストラリアのリカーショップ「Corks」での実売価格、横軸はメーカー希望小売価格である(すべて750mlに換算した)。酒の値段が高くなるにつれコーラの価格が対数関数的に上昇する傾向が得られた。ここでは横軸に日本での価格を用いたが、オーストラリア価格でも同様の結果が得られるものと思われる。
オリジナルの価格が下がるほどAPCの値段も下がるのだが、$3.00が下限に設定されているようでそれを下回るものはなかった。WOODSTOCK BOURBONなどのあまり名前の聞かない銘柄では容量を440mlに増量しコストパフォーマンスを上げていた。
現在オーストラリアで販売されているアルコールプレミックスコーラ10種類の味の比較を行った。対象になったコーラは以下のとおりで、すべて2001年11月にゴールドコーストにて購入したものだ(津々浦々参照)。
今回は中橋とW私(中本)がそれぞれに10点満点の評価を行った。相変わらずの独断と偏見ベースだが、オーストラリアに行ったときの参考にしていただければ幸いである 。
販売元 | SWIFT AND MOORE PTY. LTD. |
価格 | A$4.75 |
オリジナル | Jack Danielユs (アメリカ) |
アルコール% | 7.0% |
コメント | テネシーウィスキーの代表格“Jack Danielユs”を使ったプレミックスコーラ。缶のデザインはオリジナルのラベルそのまんま。 香りが良く口当たりもまろやかで、コクが深い。コーラで割ってあるためとても飲みやすく、ウィスキーが苦手な人にも飲みやすい。Jack Danielユs はチャーコルメロウイングという手法によるまろやかな味わいが特徴らしいが、その実力はコーラになっても遺憾なく発揮されていた。今回紹介するコーラの中でも最も値段が高いが、それに見合う実力を十分に持っている。美味。 |
評価 | 中本:★★★★★★★★★ 中橋:★★★★★★★★ |
販売元 | United Distillers & Vintners Limited (UDL) |
価格 | A$4.10 |
オリジナル | Johnnie Walker Red Label (スコットランド) |
アルコール% | 5.5% |
コメント | スコッチの中でも人気の高い「Johnnie Walker」ブランド。その赤ラベルを使ったアルコールコーラ
が本品だ。缶の中央にはブランドのシンボルであるシルクハットの伊達男John Walkerがレイアウトされていて、品のある洒落たデザインに仕上がっている。オリジナルと同じ形のボトル入りバージョンもある。 アメリカのウィスキーを使ったものに比べてややシャープな口当たり。オリジナルのスコッチにはあまりクセはないが、このコーラには独特の香りがあった。甘味は少し控えめながらコーラの味もしっかり主張しており、バランスの良さが光った。 |
評価 | 中本:★★★★★★★ 中橋:★★★★★ |
販売元 | Independent Distillers Pty. Ltd. |
価格 | A$3.00 |
オリジナル | WOODSTOCK BLACK LABEL BOURBON (アメリカ) |
アルコール% | 5% |
コメント | あまり名前の聞いたことないケンタッキーバーボン「WOODSTOCK BLACK LABEL
BOURBON」を使用。知名度の低さをカバーするかのように一回り大きい440mlサイズになっている。 香りにややクセがあり、後味にも雑味がのこる。砂糖が多いのかかなり甘いのだが、コーラの味そのものは薄かった。むしろチューハイのような印象を受けた。このあたりがバーボンの格なのだろうか? |
評価 | 中本:★★ 中橋:★★★ |
販売元 | THE CONTINENTAL SPIRITS COMPANY |
価格 | A$3.00 |
オリジナル | BLACK DOUGLAS DE LUXE (スコットランド) |
アルコール% | 5.5% |
コメント | こちらはややマイナーなスコッチ「BLACK DOUGLAS DE LUXE」を使ったもので、上記のWOODSTOCKと同様440mlサイズ。エンブレムはかなり偉そうなのだが・・。 このサイズなので警戒しながら飲んだのだが、思いのほか口当たりがまろやか。確かに安っぽいがクセがなく飲みやすい。ただかなり甘いので、飲み進むうちに飽きがきてしまうかも。味と値段のバランスに優れた一品である。 |
評価 | 中本:★★★★★ 中橋:★★★★★ |
販売元 | Bundaberg Distilling Company Pty. Ltd |
価格 | A$ 3.75 |
オリジナル | Bundaberg Rum (オーストラリア) |
アルコール% | 5.5% |
コメント | オーストラリアの多くのAPCが海外の銘柄に依存する中にあって、このバンダバーグラムシリーズは100%オーストラリア産。Bundabergはクイーンズランド東部に位置する町で、ラムの生産で知られている。ここで作られる「Bundaberg
Rum」はオーストラリアを代表するスピリットの一つである。 ラム+砂糖の組み合わせなので、かなり重厚な飲みごたえ。それでも砂糖の甘さと適度な苦味で飽きがなくすっと飲めてしまう。ラムの香りを堪能したい方にはお奨め。ただあとからずしっとくるので飲みすぎには注意だ。 |
評価 | 中本:★★★★★★ 中橋:★★★★★ |
販売元 | Bundaberg Distilling Company Pty. Ltd. |
価格 | A$ 4.14 |
オリジナル | Bundaberg O.P. Rum (オーストラリア) |
アルコール% | 8.0% |
コメント | Bundaberg Rumの上位版である「Bundaberg O.P. Rum」を使用したアルコールコーラ。O.P.とはover
proof (過剰に発酵させた)の略で、より長い年月熟成させたものらしい。アルコール度数も8%とAPCの中では最高レベルである。 上記のBundaberg Rum & Colaに比べて香りが格段に良くなっている。また味もより複雑になり、度数の高さと相まって引き締まった印象をうけた。とにかくラムの味がよく、とても力強い。お奨めのコーラである。 |
評価 | 中本:★★★★★★★★★★ 中橋:★★★★★★★ |
販売元 | Bundaberg Distilling Company Pty. Ltd |
価格 | (失念) |
オリジナル | Bundaberg Rum Gold (オーストラリア) |
アルコール% | 3.5% |
コメント | バンダバーグラムの最上位品「Bundaberg Rum Gold」を使ったシリーズ最新作。このGoldはテネシーウィスキーのように木炭でろ過してまろやかにしたもので、免税店などにも並ぶ高級品。そのためか度数は3.5%と最も低い。 バンダバーグラムは基本的にクセのなく飲みやすいのだが、なかでも本品さらに口当たりが柔らかだった。アルコール分が低いためかコーラの味が際立ち、とても飲みやすい。アルコールコーラをはじめて飲む人にお薦め。逆にややインパクトにかける面も。 |
評価 | 中本:★★★★★★★ 中橋:★★★★★★ |
販売元 | United Distillers & Vintners Limited (UDL) |
価格 | A$3.00 |
オリジナル | 不明 |
アルコール% | 5.0% |
コメント | 10年前には様々なスピリットを使ったコーラを発売していたUDLだが、最近はOuzoとScotchに商品を絞っているようだ。このシリーズは酒の銘柄を表記しておらず、本品でもスコットランド産としか書かれていなかった。 なぜか妙にバニラくさく、スコッチの香りはほとんどなかった。それでも特にコーラの味が強いわけでもなく、なんだがちぐはぐな印象。チューハイっぽかった。 |
評価 | 中本:★★★ 中橋:★ |
販売元 | United Distillers & Vintners Limited (UDL) |
価格 | A$3.80 |
オリジナル | Malibu |
アルコール% | 5.0% |
コメント | ココナツフレイバーのホワイトラム「Malibu」を使った異色のアルコールコーラ。発売元はUDL
Scotch & Colaと同じUDL。オリジナルと同じ白地に赤の太陽と黒い影が映えたデザイン。 ココナツの香りが濃厚で、コーラのフレーバーはほとんどしない。男性的なものが多いオーストラリアのAPCにおいて数少ないカクテルテイストな一品。香りにクセがあるので評価は分かれそうだが、はまる人はかなりはまりそう。危険。 |
評価 | 中本:★★★★★★★ 中橋:★★ |
販売元 | Orlando Wyndham Group Pty. Ltd. |
価格 | A$4.40 |
オリジナル | WILD TURKEY 8 YEARS |
アルコール% | 8.0% |
コメント | 日本でもお馴染みWILD TURKEY8年を使ったハイクラスのアルコールコーラ。オリジナル瓶と同じ形のボトルに入っているので、本物と間違えないよう注意したい。値段は10倍くらい違うけど。 オリジナルのコクと香りは健在で、奥深い味わいの一級のアルコールコーラに仕上がっている。アルコール分が高いためのみごたえがあり、抜群のボディ感。酒としても十分通用するほどの完成度である。てゆうかここまでくるともはやコーラでないような気もする。 |
評価 | 中本:★★★★★★★ 中橋:★★★★★★★★ |
今回取り上げた10種類のうち、もっとも評価が高かったのがJack Daniel’s and ColaとBundaberg O.P. Rum & Colaであった。この2品に共通しているのはアルコール度数が高いこと、それにベースとなるスピリッツ自身に芯がある点である。刺激の強い炭酸やカフェインと調和するにはこれに負けないくらいの力強い味わいが必要なのかもしれない。また香りも大きな要因であり、同じBundaberg Rum シリーズでもノーマルよりも香り高いO.P.のほうがずっと美味しく感じられた。
我々としてはコーラの味にも注目していたのだが、どれも炭酸とカフェインと砂糖を加えた程度のもので飛びぬけてレベルの高いものはなかった。やはりアルコールプレミックスコーラは酒であり清涼飲料ではないという認識なのかもしれない。ただカクテルなどでは「Jack & Coke」(Jack Daniel’s + Coca-Cola)などというものもあり、今後この方向に発展すると面白い(コカ・コーラが「神聖」なCokeに混ぜ物を許すかという問題もあるが)。
ここで紹介したコーラたちは一般のコンビニやスーパーではほとんど目にすることはない。オーストラリアに行く機会のある方はリカーショップに立ち寄ることをお薦めする。