コーラ白書
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コーラ津々浦々「オーストラリア・プレミックスコーラ編」

中本 晋輔

南半球に浮かぶ孤高の大陸・オーストラリア。その特殊な地理条件はこの国の様々なものが独自の進化をもたらした。他の大陸では脇役にすぎない有袋類が頂点に君臨しているのはその好例である。また文化や国民性の面でもアメリカともイギリスとも違う「オージー流」を生み出している。そしてコーラもまた例外ではない。この土地でコーラは「アルコールプレミックス」という独特のジャンルを開花させた。

プレミックス(pre-mix)とは製品の時点でコーラとアルコールが混ぜられている飲み物を指す。この手のコーラは欧州や日本でも存在するが、ビールやワインなどに比べると格下の「色物」として扱われることが多い。しかしオーストラリアではこのコーラは非常に人気が高く、ビールに次ぐ規模の市場が存在するという。日本でいう発泡酒がそのままアルコールコーラに置き換わっているような状態を想像されたい。

コーラを求めて毎年アメリカに行くのが習慣になっていた私だが、昨年あたりからニューエイジコーラのブームが終息に向かっていることもあり、今年は久々にオーストラリアへ向かう決心をした。ということで今回の津々浦々は「オーストラリア・プレミックスコーラ編」である。

★★★

やや肌寒くなった11月のはじめ、私はラピートβで関西国際空港へと向かった。愛用の布製キャスターバッグの中にはTシャツと下着3日分、洗面道具、缶を保護するためのナイロン製の筒、それに四季報の表紙用の古いペプシの瓶。トータルで4.4キロという超軽量装備である。というのも事前に友人や親からオーストラリアには相当量の種類の「地コーラ」があると聞かされていたからだ。この重さならたとえ中身入りコーラ缶を1ダース買ったとしても持ち帰れる、という計算である。

ブリスベンに空港に着いたのが午前6時。7時間あまりのフライトだが、時差がほとんどないので初日からストレスなく行動できる。11月のオーストラリアはちょうど夏が始まる頃で、旅行をするにはまさにベストシーズン。昼間は汗ばむこともしばしだがカレンダーは同じなので、ショーウィンドウにはクリスマスのディスプレイが並んでいたりする。

せっかくこんないい季節にやってきたのに、コーラだけ買って帰るのはあまりにも頭が悪い。連れがスクーバ・ダイビングをすることもあって、今回の旅行では前半の3日間を島で過ごし、後半をコーラ探索に当てる計画を立てた。なぜ後半かというと、大量のコーラを持って南の島へ行くのはちょっと切ないからだ。

空港から電車でローマ・ストリート駅へ。この駅は地上3階地下1階に長距離列車・バスのターミナルからインフォカウンター、フードコートなどが集まった旅の起点となる施設で、時間をつぶすバックパッカーたちの姿がちらほら見受けられる。

われわれもここから長距離列車に乗り換えるのだが、2時間ほど時間があったのでロッカーに荷物を預けて早速探検に出かける。ちなみにオーストラリアのロッカーは鍵ではなく誕生日と色を暗証番号にしてロックするシステムで、初めは使い方がわからずおたおたしてしまった。

駅から数ブロック以内にコンビニがあるのは世界共通のようで、すぐにセブンイレブンを発見。南アジア人が経営する小規模な店だが、こういう店の飲料棚は現地の飲料事情を敏感に反映するので情報収集には大いに役立つ。棚の主役はコカ・コーラやペプシなど見慣れた飲料達だが、すべて日本より一回り大きい375ml缶。ペットボトルになると600mlと豪独特のスタンダードが幅を利かせている。

その一方で「RED Bull」などのエナジードリンクもかなり充実していた。エナジードリンクとは昨年あたりから米国で急激にブームになったビタミン系炭酸飲料。さまざまなフレイバーが発売されているが、総じてデカビタCを酸っぱくしたようなものが多い(色も黄色いし)。独自のスタイルを確保しながらも外国の流行は敏感に取り入れているようだ。

と、その中に見たこともないコーラを発見!「GROWLING DOG COLA FLAVOUR」、直訳「唸る犬・コーラ味」という名のオーストラリア国産飲料だ。コーラというよりもコーラ味のエナジードリンクといった風情で、なかなか興味深い。幸先の良いスタートとなった。

ここで若干の食料を調達し、10時30発のロックハンプトン行きの列車に乗り込む。ここから目的地バンダバーグまでは4時間強の旅で、料金は片道3000円弱となかなかリーズナブル。リクライニングを利かせた座席から窓に映し出される雄大なオーストラリアの自然を眺めながら、おもわず「世界の車窓から」のテーマを口ずさむ。ちなみにオーストラリアの長距離列車の乗客には妙に年寄りが多く、まるで紅葉シーズンの阪急箕面線のような雰囲気だ。若者はバスや飛行機で移動しているらしい。

定刻をやや過ぎて列車はバンダバーグに到着する。この太平洋を望む小さな町はかつてオーストラリア最大の砂糖の産地として知られたところで、豊富なサトウキビを原料にラム酒の醸造が盛んに行われた。現在ではむしろ後者のほうが有名になり、この地名を冠する「Bundaberg RUM」はオーストラリアで最も人気のあるラム酒のひとつだ。

そして良い酒のあるところコーラあり。この酒を使った「Bundaberg RUM & Cola」なるものもちゃんと存在しているのだ。それもラムの種類によってレギュラー・オーバープルーフ・ゴールドの3種類がラインナップされている。ちなみにこのコーラはオーストラリアのどのリカーショップでも見かけるほどメジャーなもので、バンダバーグはラムだけでなくコーラでも名を轟かせているようだ。

ここからセスナに乗り換えて東へと向かう。紺碧の海を見ながら30分ほど飛ぶと目的地・Lady Elliot Islandが見えてくる。グレートバリアリーフ最南端に位置するこの島は美しい珊瑚礁に囲まれたリゾートで、その高いヴィジビリティはダイバーの間では有名らしい。他のアイランドリゾートに比べて設備が少なく、その分滞在費が格段に安いのも貧乏旅行者には嬉しいところだ。部屋には電話もテレビもなく、ゆっくり過ごすには世界で最高の場所かもしれない。

Lady Elliotは島まるごとが一つのリゾートで、食事は唯一のレストランでとることになる。電話が無いくらいなので島には自販機は当然存在しない。そのかわり朝食後から夜9時までは売店とバーが開いているので飲み物はそこで購入できるようになっていた。なかなかツボを押さえたラインナップで、コーラに関してはコカ・コーラやペプシはもちろんダイエットシリーズを完備。またアルコール系コーラも数種類が用意されていた。

ここで荷物を増やすのもどうかと思ったが、今見送って結局買えなかったとなれば泣いて歯軋りでは済まされない。やや割高ではあったがJack Daniel & ColaとBlack Douglas & Colaを購入。特に前者はアメリカの有名なテネシーウィスキーを使っているということもあり、試飲会を待たずに失敬することにした。砂浜のベンチでエメラルドの海を臨みながら飲むJack~ は格別であったが、つれや周りの人には昼間から飲んでるおっさんにしか見えなかったことだろう。

このあと三日間ほど島に滞在し、初めてシュノーケリングに挑戦したりリーフウォーキングで海鼠を踏んだりメルボルンカップを寝過ごしたりといろいろしたのだが、あまりコーラと関係ないのでここでは割愛する。ただ一ついえるのは、このLady Elliotの居心地が大変に良く私もつれも大変満足だったということである。ここで十分に英気を養った私は、噂に名高い(?) オージーのコーラたちとの対決のため一路ゴールドコーストへと向かった。

ゴールドコースト=白浜

半日以上列車とバスに揺られて、我々が次なる目的地Gold Coastに着いたのは夕闇迫る頃だった。川辺にたたずむ「Concord」というホテルでチェックインを済ませ、23階にある部屋でとりあえずベッドに身を任せる。部屋の内装は時代遅れながらも質の良いものが使われていて、おそらく昔は中級以上のホテルだったのであろうが、今は何故か1泊2人で7800円(予約は2泊以上)という安宿になってしまっていた。日本からの格安ツアーの拠点になるのだろう、ホテルのあらゆる施設に日本語表示があるのが寂しかった。

しばらくすると猛烈に腹が減ってきたので、食料を調達するため夜の街へと繰り出す。ゴールドコーストといえど一応は海外、夜の外出には注意するに越したことはない。珍しくパスポートやチケットをフロントのセーフティボックスに預けることにした。

だが、しばらく町を歩いてみると妙なことに気づいた。すれ違う人という人みんな日本人なのだ。それも私のあまり好きでないタイプばかり。はじめはそれが面白かったのだが、だんだんそれが腹立たしく感じてきた。気分転換に土産物屋に入ると全ての商品に日本円の表示が!そのうえ油断するとワーホリ(註1)であろう店員の姉ちゃんが、ただ同じ日本人であるという理由だけでタメ口で話し掛けてくる。ゴールドコーストは、少なくともこの一角は南紀白浜の近くと何も変わらないではないか。確かに金か白かの違いだけなのだが・・・。

怒りが蓄積され、だんだん口数が少なくなる私。とりあえず何か食わすのが得策だと判断したのだろう、日本人の少なそうなレストランへ行こうと連れが提案した。確かに空腹が私の怒りを助長していることは間違いなく、なかなか賢明な判断である。しばらく夜の街をさまよった挙句、CAVILL通りの角にあるHard Rock Cafe (Gold Coast)に落ち着いた。

大人のアイスティと炎の缶

HRCには場所や期間限定のオリジナルメニューがいくつかあり、それを見つけるのもHRCファンの楽しみの一つだ。ここで私がオーダーしたHRC Iced Teaもその一つ。これはアイスティとは名ばかりの、コカ・コーラを使ったジンベース(多分)のカクテルだ。ラムベースのCuba Libreよりもシャープな味わいで、後味も爽やか。大いに気に入ったのだが、アルコール分が高いようで一杯で随分酔いが回ってしまった。

メインにもう一つのオリジナルメニュー「オージーバーガー」を平らげ、店を出る頃には私の機嫌はすっかり直っていた。さきほど通った土産物屋の並ぶ通りを避けて散歩していると、一軒のコンビニに行き当たった。レジと飲料棚とが店のほとんどを占めるような小さなところだったが、通りに面した棚に私は目を奪われた。黒字に炎のイラストだけが描かれた細身の缶が一面にぎっしりと並んでいたからだ。

普段はニューエイジドリンクにまで手を広げないようにしているのだが、そのあまりのインパクトと缶デザインのセンスのよさから1本購入することにした。レジに座っているおねえちゃんによれば最近発売されたもので、評判もなかなからしい。日本でもこんなデザインの缶が増えてくれると面白いのだが。

オージーコーラとの対決!

ゴールドコースト2日目、私はいつもより早く目を覚ました。今回の旅行スケジュールでは街で丸一日過ごせるのはこの日だけで、時間の許す限りコーラが買える唯一の日なのである。この日のためにオーストラリアにきたといっても過言ではない。私のテンションは否が応でも高まる。

まずは景気付けにと、海岸通りのオープンカフェで朝食をとることにした。通りをはさんだ向こうには白い海岸が果てしなく続き、初めてこの場所がサーファーズパラダイスと呼ばれている理由を理解する。ところでこちらの食事は、量に関しては随分とアメリカナイズされているようだ。オージー・ブレックファスト(朝食からラムステーキが入っている)と一緒にマッシュルームをオーダーしたところ、私の生涯で1回の食事としては最大量のマッシュルームが出てきてしまった。バターでソテーされてつやつや光ったやつがまさに山盛り。く、苦しい・・・。

何とか完食した私はまず街の両替所でこの日の軍資金を調達し、ローカルバスでパシフィックフェアショッピングモールへと向かった。このモールはスーパーやデパート、ブランドショップ等が集まるゴールドコースト最大の複合商業施設。バスターミナルを併設した市内観光の拠点でもあり、10時前だというのに大勢の人で賑わいを見せていた。まずは手始めにスーパーマーケットを攻めることにした。

アメリカのスーパーには必ずといって良いほど自社ブランドのコーラがある。それも1種類だけではなく複数のヴァリエーションをもつ事がほとんどで、スーパーを見つけたらその数倍のコーラがあると考えなくてはならない。オーストラリアでも状況は同じようなもので、モール内の3つのスーパー、coles, WHOLESALERS, K-martと梯子するとうちに背中のリュックがずっしりと重くなってしまった。特にcolesではCola, Diet Cola, X-tra Colaという豪華ラインナップ。アルコールコーラと対面する前のちょっとした前哨戦の雰囲気だ。

新鮮だったのは、レギュラー(ダイエットでないもの)の甘味料に砂糖のみが使われていたことである。アメリカでは少しでもコストを下げるためコーンシロップを使用する例がほとんどで、砂糖100%なのはJolt Colaくらいのものだ。オーストラリアでは砂糖が安いのかそれとも人々の嗜好の問題なのかは分からないが、異性化糖に慣れた私にはちょっとしたカルチャーショックだった。

のどが渇いていたので一缶飲んでみたが、何のことはない、甘みが柔らかくなっただけの薄っぺらい安物コーラの味がした。

スーパーの雑魚どもをリュックに詰め、ついに本命の探索を開始する。Lady Elliot以外ではこれまでアルコールコーラを見かけてなかったが、これはこの国では酒類の発売できる場所が厳しく制限されているからだ。酒類は全てリカーショップで扱われており、アルコールコーラも当然ここで売られているはずである。

朝来たときには「Close」の札が掛けられていたバス停近くの酒屋は、モールが活気に包まれる11時にようやく店を開けたところだった。落ち着いた雰囲気の、バドワイザーのネオンサインが似合いそうな店だが、ここではそれはBundaberg Ramのシンボル“Bundy Bear”の看板に置き換わっている。またそのコーラ割りも人気のようで、4缶パックを宣伝した立て看板が入り口に無造作に置かれていたりする。このディスプレイからすればアルコールコーラを扱っていることは間違いなさそうだ。

中は昔の日本の酒屋に似ていて、店内にはコンビニやスーパーにはない独特の薄暗さがあった。壁は入り口横のレジを除けばすべて飲料棚で、真中にはビールの4缶パックなどが積み上げられている。とりあえず私は一番近い棚を除き、そして立ちすくんでしまった。蛍光灯で照らされた冷蔵棚の中には、これまで見たこともないコーラが幾つも並んでいるではないか。

一般にコークやペプシ以外のコーラといえば赤と白を基調にした、ややもすれば没個性なものが圧倒的に多い。しかしここに並んでいるコーラたちはそれぞれ趣向を凝らしたデザインのものが数多く見受けられた。これは使用しているウィスキーやラムと同じシンボルを使ったり、オリジナルのラベルそのものを流用しているためだろう(特集参照)。

またアルコールコーラは缶入りだけではない。いくつかはオリジナルのボトルを一回り小さくしたガラスボトル入りのバージョンも同じ値段で販売されていた。これも一種のガラス効果なのか、ボトルに入ると同じ製品でもずいぶんと高級に見えるようだ。

私はしばらく放けたように棚を見ていたが、我に返ると振り返ってレジのお姉ちゃんに声をかけた。

「バスケットはあるか?」

「ない」

うむ。おそらくこんな狭い酒屋で両手に持ちきれないほどいろんな種類の酒を買う奴なんていないのだろう。しかたなくレジと棚とを何度か往復した。全て運び終わった頃には、10缶の色とりどりのコーラがレジに積み上げられていた。

「All of them?」

レジの近くにいたおっちゃんが笑ったような、困ったような表情で尋ねる。コーラを大量に買い込む外国人に対して現地のひとが見せる普遍的な表情だ。こういうときはこちらも上機嫌なので必要以上のスマイルで応えてみたりするので、さらに怪訝がられたりするものだ。でも、もう慣れたもん。

敗北

午前中の収穫は全部で15本。今回の旅行で予想していた1ダースを軽く超えてしまったが、ここで手を緩めるわけにはいかない。コーラを鞄に詰め込み、ローカルバスで今度はLobina Town Centerへと向かう。

Lobina Town centerはロビーナ鉄道駅の近くに最近作られたという、スーパーや専門店、映画館などが集まるショッピングモールだ。街の中心部からバスで20分ほどの距離にあるため地元の利用客が多く、ガイドブックにも小さく紹介されている程度。リゾートにやや食傷気味だった私はオーストラリアの人が買い物にいくような「普通のモール」を見てみたくなったのだ。

バスは別荘の並ぶ丘陵を抜け、美しい大学のキャンパスの前で学生を拾ったあとLobina Town centerへと向かう。敷地が広大すぎてどこで降りたものかと思っていると、先程の大学生達がいっせいに降り支度をはじめる。どうも目的地が同じようなので、おとなしく彼らについて行くことにする。しかし大学の近くにこれだけのモールがあるというのはちょっと羨ましい。

ロータリーでバスを降りると、そこがモールの入り口になっている。中は吹き抜けのホールの両側にスーパーや店舗が左右に並んだ開放的なつくりで、スーパーや書店などが軒を連ねていいる。オーストラリアのモールでは一般的なのか、ここでも入り口のすぐ隣にリカーショップがあった。こちらはガラス張りの広々としていてなかなか雰囲気がよい。

品揃えも先より充実していて、新たなコーラが3本見つけることができた。またすでにデータベースに収録されているアルコールコーラのいくつかはデザインが変わっており、これも更新用に買っておかねばならない。そんなこんなでコーラを次々と買っていくうちに、私のリュックは限りなく重くなっていった。

始めはコーラの発見に大いに浮かれていた私の心にも背中の重みがずしりと答えるようになってきた。日本に持って帰れるかも疑問だ。こんなとき私はどうするかと言うと、心の中ではもうこれ以上発見しないことを切に願いながら、しかしやはりコーラのありそうな店に足を運んでしまうのだ。そして棚を見回して目新しいのが無いことを確認すると安心するのである。なんだか理不尽な行動パターンに陥るわけだが、このときもそんな状態だった。

このモールには3つのスーパーが入っているのだが、その顔ぶれはパシフィックフェアと同じ。だから新しいPBコーラは無いはずである。私のリュックはもはや限界だ。「どうか新しいコーラがありませんように」と念じながら、それでもやはり飲料コーナーへと足を運ぶ。その祈りが通じたのか、K-martとWHOLESALERSでは特に目新しいものは見つからなかった。

しかし、最後にcoles立ち寄ったとき、その祈りが届かなかったことを知る。棚には、「Adult Cola」と銘打たれた見覚えの無いコーラ姿があったのだ。アルコールが入っているわけでもなく、何がアダルトなのかよくわからないが、かなり惹かれるネーミングだ。正直言って欲しい。是非飲んでみたい。

しかし問題はその容器だった。オーストラリアでは普通のコーラは缶入りが圧倒的に多いにもかかわらず、そいつは取っ手のついたガラスボトル入りだったのだ。そのうえ容量は750ml。全部あわせれば重さは1キロを超えるだろう。果たして今の俺に持てるのか?そして日本に持って帰れるのか?

私はしばらくその黒々としたボトルを睨みながら考えた。あるいはそれはそれほど長い時間ではなかったのかもしれない。しかしその間にこれまでに買ったコーラの数や重さ、それにキャスターバッグの空き容量などを懸命に思い出し、入るかどうかシミュレートしてみた。答えは否だった。

砂を噛む思いで、私は自分自身に言い聞かせるように呟いた。

「今回は・・・諦めるか」

しかし「Adult Cola」というネーミングや概念、その特殊な容器の形はだまっで見逃すにはあまりにも惜しい。とりあえず写真だけでも撮っておくことにした。スーパーの店内で写真をとるというのはかなり恥ずかしい作業のはずだが、このときばかりは悔しさが勝っていた。

colesの棚に未練を残しながら、我々はロビーナを後にした。

最後の難関

楽しかったバカンスはあっという間に過ぎ去り、日本へと帰る段となった。今回の収穫は当初の予定の倍近い21本。これは過去最高の数字であり、オーストラリアのオリジナリティに感謝したい。

飛行機の席で今回入手したコーラに思い巡らしているとき、ふと嫌なことを思い出した。確か日本の税関では酒類の免税範囲は3本までではなかったか。今の私のバッグには10本以上のアルコールコーラが入っているのだ。通関の時には「申告あり」のレーンに並ばなければいけないんじゃないだろうか。散々に散財したあとで金を取られるのは痛いし、度数を考えると釈然としない。

関空で荷物を受け取り、税関のところまでやってきた。「申告あり」の赤いゲートに長い列ができているのを見たとき、私は緑のゲート、つまり「免税」へ行くことを決心した。

この通関というのは当たり外れが多く、厳しい人にあたると鞄の奥のパンツまで引っ張りだされたりする。少し離れて通関の様子を観察すると、妙に回転率が早いレーンがある。私は予めパスポートを用意してその列に並び、我々の番がくるやいなや通関士のにーちゃんに「こんにちは!」とベストスマイルで挨拶してみた。アメリカなんかで挨拶しておくと入国審査がスムーズになる、というあれである。するとにーちゃんは私を一瞥すると、パスポートを見ようともせず「いいですよ」と通関させてくれたのだ。挨拶が効いたのかつれがいたのが良かったのかは分からないが、なんだか肩透かしを食らった気分であった。

融合の大陸

コーラとウィスキーやラムを混ぜるという発想は、決して珍しいものではない。しかし、コーラを生んだアメリカもウィスキーを確立させたスコットランドも、それをプレミックスという形でここまで発展させることはできなかった。

今回のコーラで私がとりわけ気に入っているのが“Jack Daniel’s & Cola”である。その味わいもさることながら、アメリカ南西部で生まれた2つの「アメリカの象徴」がはるか太平洋を渡って融合したということに魅力を感じるのだ(テネシーとジョージアは隣同士なのをご存知だろうか)。それは良い物を積極的に取り入れ自分のものとすることに長けたオージーの気質を象徴しているようにも思える。

アルコールコーラの新たな発展を見届けるため、そしてcolesでAdult Colaを買うためまたいつかこの地に戻ってきたい、そう思わせる今回の旅だった。


(註1)ワーキングホリデーの略。客には敬語を使え!

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