コーラ白書
TOP四季報データベース缶コレ資料館殿堂検索ヘルプ
English

謎のコーヒーコーラ

中本 晋輔

コーラの定義はとても曖昧なもので、とにかくどんな味でもコーラとさえ銘打っておけばそれはコーラである。だからチェリーやレモン、チョコレート、ガラナ、最近ではバニラや高麗人参と、様々なフレイバーを持つものが数多く開発された。

なかでもここ数年で急に脚光を浴びているのがコーヒーのフレイバーを付けたコーラ、「コーヒーコーラ」である。一瞬ちょっと引いてしまうような組み合わせだが、実はこの手のコーラがここ数年で結構発売されているのだ。国内でもUCCやSuntoryから発売されたので、聞いたことある方もいるかと思う。

しかしその組み合わせの奇抜さとマイナーさからか、実際に口にする機会はほとんどない。今回はそんななぞに包まれた新飲料、コーヒーコーラを特集してみた。

■コーヒーコーラの歴史

コーヒーコーラがいつ頃から作られ始めたのか、はっきりした記録は残されていない。ただコーラ誕生のプロセスを考えると、かなり初期の段階でコーラとコーヒーが出会っていた可能性が高い。

コーラ誕生のきっかけとなったのは19世紀のアメリカの売薬ブームである。これは様々な材料を混ぜ合わせて薬として販売するというアバウトなもので、この中でコカ・コーラ、ペプシ、ルートビアなど新しい飲料が次々と生まれた(→コーラの歴史「コーラ誕生前夜」参照)。

17世紀にヨーロッパにもたらされたコーヒーは当時世界的に広まっており、アメリカでもかなりポピュラーな飲み物になっていた。この独特の風味をもつ穀物を当時の薬剤師たちが使わない手はなく、無数のコーヒー豆+コーラナッツ抽出物を含む飲み物が作り出されたことは想像に難くない。事実コカ・コーラが公表した1900年頃の「偽コーラ」リストにはカフェ・コカという名前の飲料が2番目に記載されている(For God, Country and Coca-Cola, p104)。

しかしその後カフェ・コカが大ブレイクしたという話もなく、コカ・コーラがコーラのスタンダードとして定着する。ライバルたちはコークに追従するのに忙しくなり、コーヒーを使った新飲料開発の試みは途絶えてしまう。研究熱心で知られるロイヤル・クラウンですらコーヒーコーラには手を出さなかった。

その後1世紀の間、コーヒーコーラは歴史の表舞台から姿を消す。70年代までCOKEやPEPSIはコーラを単一商品とする姿勢をかたくなに守りつづけ、コーラに味を付ける、ましてやコーヒーと混ぜるといった概念は生まれなかった。ただ一部の小規模なメーカーからは「Cafe Cola」といったものが細々と生産されていたらしい。

80年代後半にチェリーコークに代表されるフレイバー系のコーラが市民権を得ると、様々な味のコーラの開発が盛んに行われるようになる。中でもペプシはその急先鋒で、PEPSI Strawberry BURST (米91年) や PEPSI RASPBERRY COLA (日本95年)といった新製品を次々とリリースした。

そんななか、PEPSIはコーヒーコーラにも着目する。1995年、フィラデルフィアでペプシ初のコーヒーコーラ"PEPSI KONA"(上写真)とそのダイエットバージョン"Diet PEPSI KONA"がテスト販売された。ちなみにKONAはコーヒーの産地として知られるハワイの地名である。

このペプシの試みは大きな驚きを持って受け止められ、試験販売の期間は異例の2年間にもおよんだ。しかし結局PEPSIの答えは"No"であった。理由は不明だが、PEPSIは全国販売には踏み切らなかったのだ。ただこの時期のテストプロダクトは全て正式採用されておらず、ペプシコナも巨人のちょっとした気まぐれだったのかも知れない。

その6年後、今度は日本で初となるコーヒーコーラが発売された。発売元はコーヒーの名門、上島珈琲(UCC)。「Cafe la SHOWER」は生産中止となったJolt Colaの後釜として開発されたもので、鮮やかなデザインのガラスボトルが(ごく一部で)話題になった。

またほとんど同時期に、今度はサントリーからKAHLUA Rum-Colaが発売される。これはコーヒーのから作ったラム"KAHLUA"とコーラという、いわばコーヒーコーラの発展型ともとれる意欲作であった。

このように2001年は日本の「コーヒーコーラ元年」とも言える年であった。しかし残念ながら両者ともイロモノの域を脱せず、市場に橋頭堡を築くことはできなかった。

そしてその年の夏、今度はアメリカでコーヒーコーラの真打ちとも言える強力なコーラが現われた。発売元はあのジョルトを擁する米清涼飲料界の異端児"WET PLANET"。カフェイン絶対主義の彼らはコーヒーよりさらに強力なエスプレッソに着目し、最強コーラ「Jolt espresso」を世に送り出してきたのだ。

■コーヒーコーラを作ってみよう!

このように近年急激に発展を遂げたコーヒーコーラだが、口にする機会があまりにも少なくその詳細は謎に包まれている。この新鋭のコーラの本質を理解するため、我々は実際にコーヒーコーラを作ってみることにした。

コーヒーコーラの作り方は、要するにコーヒーとコーラを混ればいいわけだ(多分)。実は我々、コーヒーに関してはちょっとうるさい。何しろ、UCCから「コーヒー大博士」の称号を頂戴しているのだ。やっぱコーヒーはドリップである。そしてコーラで直接ドリップしてこそ真のコーヒーコーラだ!(何が?)

てなわけで、コーラでコーヒーを直接ドリップすることに決定! が、ここにきてドリップ法に大きな障害が立ちはだかる。コーヒーメーカーにコーラを入れると沸騰してしまうじゃないか!その上コーヒーメーカーも壊れそうだ。

そこで白羽の矢がたったのはモンカフェタイプのドリップコーヒー。いきなりレベルダウンだが、ここにコーラを入れればとりあえずコーヒーコーラになるに違いない。

■出ないんですけど

早速スーパーで安売りされていた「神戸珈琲某」をコップの上に置いて、おもむろにコカ・コーラを注いでみる。エイサー・キャンドラーが見ていたらはり倒されそうな光景だ。

コーヒーの袋にコーラをいっぱいまで入れてると、コーラが急激に泡立ち始める。それがコーヒーの粉末を含んでボコボコなるもんだから、ビジュアル的にとてもキタナい。その上フィルターの表面に付着した炭酸のせいで、まったくドリップしないのだ。今月の特集、いきなりピンチ!

それでも5分くらい待つと、ようやく一滴、一滴と黒い液体がしたたり始める。できたブツは一見普通のブラックコーヒーのようだが、どこまでがコーラでどこまでがコーヒーなのかイマイチ分からない。待つこと15分、やっと味見できるくらいの量が得られた。

恐る恐る飲んでみる。あれ? どこにでもあるような砂糖を入れたコーヒーの味がする。ドリップに時間がかかりすぎて、その間に完全に炭酸が抜けてしまったのだ。コーラ独特の酸味はあるものの、炭酸がないせいかコーラ感が全然ない。いわゆる失敗である。

■また奴か!

ここで初めてドリップコーヒーの説明書きを見る我々。と、そこにはさっくりとこう書かれてあった。

「お湯でドリップして下さい」

ま、普通はそうだろうな。よく読んでみると、アイスコーヒーを作るときでも水ではなくお湯でドリップしてから冷やすらしい。これは溶解度の問題もあるが、おそらくお湯で濾紙が蒸らされることでドリップが加速されるのからだろう。ならはじめにちょっとお湯で蒸らしてやればいいんじゃないか?

試してみると、さっきとは比べもにならないスピードでドリップする。3分足らずで一人前のコーヒーコーラができあがった。その上微妙に炭酸が残っている様子。おお、これだ! 

早速飲んでみると、微炭酸であるがコーヒーコーラの味がする。Coca-Colaの芯のある味はコーヒーに負けてしまっているが、独特の酸味がコーヒーの風味と相まってそれなりに美味しい。コーラとコーヒーって意外と合うかも(←今頃言うな)。

調子に乗ってPEPSIとSavings Cola(ダイエー)でもドリップさせて、飲み比べてみることに。ところが、コーラを替えるととたんに風味が変わってくる。 特にSavingsのものは味がフラットになり、ただの炭酸コーヒーみたいになってしまった。それに比べるとペプシはずっと美味しいが、ペプシ独特の香りとコーヒーの相性がイマイチよろしくない。結局コカ・コーラで作った物が一番おいしいという、全然面白くない結果になった。

つれの舌打ちが聞こえるようだ。

これ以上条件を振るのは面倒なので、以降はコカ・コーラを使うことにした。何か悔しいが。

■混ぜるべし!混ぜるべし!

コーラといえば、やはり炭酸だ。ドリップ法でフィルターを通してしまうとこの炭酸がどうしても抜けてしまって、本来のコーラの味わいが半減してしまう。ここはやはりコーヒーとコーラを直接混ぜるのが一番! 間違いない!

という至極当然な結論に至った我々は、ベースとなるコーヒーを探しに町に出た。砂糖抜きのコーラというものは売っていないので、コーヒーは必然的にブラックになる。余談だが、この時つれから借りたチャリはタイヤパンク+サドルグラグラのコンボ状態で、フィットネス器具のような乗り心地だった。

コーラの種類であれほど風味が変わったのだから、コーヒーの及ぼす影響は計り知れない。最高のコーヒーコーラを目指すなら、コーヒーに妥協は禁物。我々は不退転の決意を胸にコーヒーを吟味する。

そして白羽の矢がたったのが次の3種類。ひとつは上島珈琲謹製「UCC Black」。名門コーヒーメーカーが満を持して送り出したブラックコーヒーだ。また対抗にはUCCのライバル的存在・ドトールコーヒーの「Dotour SUPER BLACK COFFEE」を挙げた。なにせ名前が「超ブラックコーヒー」、なにかやってくれるに違いない(謎)。

そして3つ目にはコーヒー界のカリスマ、スターバックスのエスプレッソを選んだ。一度でも飲んだことのある方ならおわかりだろうが、こいつは物凄く偉そうなコーヒーだ。注文すると時間がかかる上に、お猪口みたいなミニカップにちょこっと入って出てくる。しかしこいつがやたら濃ゆく味わい深いシロモノなのだ。

まずは混ぜ比を固定して、3種類の飲み比べ。コーラには先ほど評価の高かったコカ・コーラを使用した。分量はとりあえずコカ・コーラとコーヒーを2:1の割合で混合した。

ドリップ式と大きく異なるのはその泡立ち。炭酸と珈琲が混ざると少し褐色がかったクリーミーな泡が立ち、いかにも美味しそうな様相。さっきのコーラの小汚い泡とは大違いだ。これはいけるかも!

まずは"UCC Black"。今回は炭酸はしっかり効いており、先ほどのドリップと比べて格段に進歩している。 UCC製なのでカフェ・ラ・シャワー的なものを期待したのが、全体的に軽い感じのコーヒーコーラになった。香りも悪くなく飲みやすいのだが、味的に少し物足りないようにも思う。

次に試したのがドトールの"SUPER BLACK COFFEE"。UCCより苦みが強いのか、こちらはややバランスの取れたコーヒーコーラになった。少し香りは薄いものの、むしろこちらの方がカフェ・ラ・シャワーに近い味わいに。コーヒーコーラとしては及第点のデキといえそう。

最後は本命・スタバのエスプレッソ使用のコーヒーコーラだ。一口飲んだところで私と中橋の動きが止る。独特の苦みを残しつつもコーラの甘さでとがったところが緩和され、それに炭酸がマッチして、かなり奥深い味わい。はっきり言って旨い。当初狙っていたJolt Espressoを越える出来だ!

ただこの比率だとややエスプレッソが勝っている印象だったので、比率をいろいろいじってみた。結局行き着いたのが、コーラとエスプレッソ4:1の黄金比であった。コーラの比率が高くなった分ぐっと飲みやすくなり、それでいてエスプレッソの味と香りがしっかりと効いている。苦節2時間(短っ!)、ついに納得のできるコーヒーコーラが完成したのだ。

参考までに今回作ったコーヒーコーラについてまとめておく。

No.
コーヒー コーラ 短評
1
神戸珈琲(ドリップ) Coca-Cola

直接ドリップ。炭酸完全に抜ける

2
神戸珈琲(ドリップ) Coca-Cola 蒸らした後ドリップ。微炭酸でそこそこうまい
3
神戸珈琲(ドリップ) PEPSI COLA 蒸らした後ドリップ。香りがコーヒーといまいちあわず。
4
神戸珈琲(ドリップ) Savings Cola 蒸らした後ドリップ。味が単調で味わいに欠ける
5
UCC Black(缶) Coca-Cola サッパリとしたとしたコーヒーコーラ。少し物足りないか
6
Dotour Super Black Coffee(缶) Coca-Cola バランス良好。カフェラシャワーっぽい。
7
Sturbucks Espresso Coca-Cola エスプレッソの苦味とコーラとのバランスが絶妙。優勝。

結局コカ・コーラとスタバのエスプレッソという、芯のある個性の強いもの同士の組み合わせが最も美味しかったという興味深い結果となった。

コーヒーコーラとは何か。それはコーヒーとコーラの戦いである。そこにはコーラとレモンのような馴れ合いは存在せず、一方の個性が弱ければ相手に食われてしまう弱肉強食の世界。個性の強いもの同士が全力で戦う姿に我々は心打たれる。それがコーヒーコーラの本質なのだ。

・・・それが清涼飲料としてどうなのかは、また別の問題である。

■蛇足

最近コーヒーのフレーバリング(香り付け)が流行っているらしい。スタバではコーヒーにナッツやバニラなどのフレーバリングを追加してくれるし、そのシロップも販売されている。このテクニックを使えば、コーヒーコーラはさらに美味しくなるかもしれない。

と言うわけで購入決定。何種類かあるのだが、ここは意外性を重視し「ヘーゼルナッツ」を選択。先のエスプレッソコーヒーコーラに早速投入してみる。

一口飲んでみる。しばしの沈黙のあと、つれが黙って流しにコーラを捨てに行った。

人間あまり思いつきで行動しないほうがいいです。