中本 晋輔

このホテルらしいな、と思った。

ザ・リッツ・カールトン大阪の5階にあるメインバーは、名を"The Bar”という。一件シンプルにも聞こえるが、最高のサービスを提供する「唯一無二の」場所として名づけられたことは想像に難くない。

キャビネットのあるエレベーターホールから迷路のように曲がった通路を進むと、左手にエントランスが見えてくる。重厚な木を使った落ち着いた雰囲気はこのホテルに共通するものだ。窓際の小さなテーブルにつくと、隣の口髭のピアニストが歌いながら目で歓迎してくれた。

そう、窓があるのだ。部屋の壁2面に大きな窓が並んでおり、そこから廊下の明かりが室内を柔らかく照らしている。メインバーといえば何処か重厚で閉鎖的なイメージがあるが、ここは品を損なうことなく心地よい開放感がある。廊下の向こうはガーデンになっているそうで、昼間はまた違った趣になるに違いない。

メニューには載っていなかったが、キューバリブレはすぐに出てきた。薄い褐色のカクテルが満ちたトールグラスに、厚切りのライムと銀のマドラーが沈んでいる。

辺りの雰囲気を映したわけではないだろうが、驚くほど口当たりが軽い。キューバ・リブレはコカ・コーラとバカルディ、ライムをステアしただけの単純なカクテルで、ややもすれば重くなりがちだ。なにか秘密があるのかと尋ねてみたが、基本どおりの作り方だった。

よく漬かった琥珀色のオリーブをツマミにしていると、すぐにグラスが空になってしまった。もう少しを飲みたい気分だったが、同じ物では面白くない。二杯目を聞きにきたバーテンダーに、今度はお薦めのラムでキューバ・リブレを、とお願いした。

程なく出てきた二杯目は、さっきより少し濃い褐色。ラムの風味と香りがずっと濃厚で奥深くなったが、不思議と重さを感じさせない。まるでこのバーを濃縮したようなこのキューバ・リブレは、すぐに私を虜にした。

「一杯目が軽いラムでしたので、今回はダークラムにしてみました」。聞けば ロンサカパ センテナリオ というグアテマラのラムだという。国際的なコンクールでゴールドメダルに輝いたラムです、とペタテ織のパッケージを見せる彼女はどこか誇らしげだった。

「アリガトゴザイマス。」

隣のピアニストが片言の日本語でこう告げて、2度目の休憩に立った。このバーでたっぷり1時間以上過ごしていることに私は初めて気づいた。


今月のキューバ・リブレ

ザ・リッツ・カールトン大阪
「THE BAR」(ザ・バー)

1300円

Total 7356円(2名)


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