コーラ小説 「真夏のコーラ味」

桃崎みほ

 蝉の声が煩わしく、じっとり熱い空気で息が苦しい。制服は常に汗と高い湿度のためしっとりと湿っている。どんなにスカートを短くしても一向に涼しさは感じられない。デオドラントスプレーや香水のせいで教室には異様な匂いが立ち込めている。毎日その中で授業受けろなんて集中できる方がおかしい。
 私は3限目が終ると鞄を持って教室を出た。
「帰るの?」
親友の美香が、急いで駆け寄った。
「もう限界。気分悪くなった。あんたも帰る?」
美香は、次の授業に出ないとやばいから終ったらメールすると言って手を振った。
 教室を出ると隣のクラスの寛樹が待っていた。
「やっぱりな。帰るんだろ?俺も。」
普段より一層に暑い日は決まってこんな風に私たちは授業をサボった。狭くて、臭くて、暑苦しい教室を出て、澄み切った青い空と空気を体一杯に感じて深呼吸をしたくなるのだ。
 コンビニでいつもの物を買って、自転車を二人乗りしてゆるやかな長い坂道を寛樹が汗だくになりながら力一杯こぐ。私は後ろで涼しげに鼻歌を歌う。寛樹がたまに振り返ってふざけんなよお前代わってこげと言うけど笑って無視して歌い続ける。そんなやりとりを数回していると、林の向こうに海が見えてくる。私たちの秘密の場所。
 教室で暑苦しさが嘘のように、ここでは汗が自然とでることもない。心地良い冷たい風が、暑さも制服の湿気も吹き飛ばしてくれる。寛樹は堤防に上がりバタッと倒れて言った。
「最高。ここに来ると嫌なことも全部忘れるよ。」
私は太陽がギラッと眩しくて思わず手をかざした。ふいに強い風が吹いて短く折ってあるスカートがめくれた。
「ひゃっ。」
急いで両手で押さえる。それを見た寛樹が大声で笑う。私はムッとしてコンビニの袋を投げつけた。
「痛って。あーあ中身炭酸だし、しばらく開けらんねー。」
寛樹がすねた様に言う。
「いいじゃん。開けようよ。」
私は、すぐに寛樹からコンビニの袋を奪い今開けたらやばいってと取り戻そうとする寛樹を突き放して急いでペットボトルの栓を開けた。
プッシュ−ッ!シュワシュワシュワー!
勢いよく泡となったコーラが噴き出した。
太陽の眩しさとそれが海に反射した光とが重なり合う空間の中で泡となり空に向かって噴き出すコーラは、キラキラと虹色に光り輝いた。綺麗だと思った。
「あーあ。もったいない。」
寛樹は残念そうに残ったまだ中でシュワシュワと音を立てているコーラを見つめると一気に飲み干した。
「こっちあげるから。」
私は、自分のダイエットコーラを差し出した。彼は私の手首を掴み自分に引き寄せてキスをした。
ピリッと甘いコーラの味がした。

桃崎みほさん - 「一児の母です。コーラ=青春のイメージがしてこの作品を書きました。」


[コーラ白書] [HELP] - [English Top]

Copyright (C) 1997-2014 Shinsuke Nakamoto, Ichiro Nakahashi.
当ウェブサイトに記載されている会社名・商品名などは、各社の登録商標、もしくは商標です