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第2特集 / 簡単! コーラ料理

おまけ ドキュメント・コーラお料理隊

■春の訪れ

春になると,毎年忌々しい彼奴がやって来る。そもそも下等な生物ほど,その生殖能力は強いものだ。

それは杉花粉。

そもそも考えてみれば,たかが裸子植物の分際で俺様に盾つくとは何たる不届き者か。だいたい花粉なんて,染色体も1組しかないクセに生意気じゃないか。俺様にはちゃんと2組あるぞ(たぶん)。こんな奴らは,いつか残らず割り箸に加工して割り滅ぼしたいものである。もしくは,地球にやさしい再生紙として死ぬまで印刷されろ。命令だ。

しかし奴らの無法も長くは続かない。3月も末近くなると,旺盛だった繁殖への意欲にも陰りが見えはじめる。折しも降りはじめた春雨が空気を清めてくれると,ようやく俺様にとって本当の春だ。ビバ! 春雨。ビバ! 中華サラダ。

などという唐突なイントロに深い意味はないのだが,我々取材班が 「ついに来た来た世紀末! 恐怖のコーラ料理が降って来る大試食会!」 なる企画を立案したのがそんな季節であったことは,記録せねばなるまい。記録こそが,人類の歴史を過ちの繰り返しから救う唯一の手段なのだから。

■お買物

何だかまた話が横道にそれて,文体というか一人称の人格の統一というものも破綻してきちゃったのだが,ともかくそんなこんなで私と中本(実名)は,とりあえず京橋のダイエーへと向かった。何だか気が重いので途中で Wendy's に入ってハンバーガー食ったりしてうだうだしたりするとかいうことも全然無く(検閲済),てきぱきと買物をこなしていった。

挑戦する予定のメニューは,この時点では6つ。ベースとなるレシピは,既にインターネット上で調べてある。それを多少アレンジして(手を抜いて),これから実際に調理してみるのだ。

ちなみに本日に関しては,NGワードも既に定められている。

「コーラさえ入っていなければ...」

こんなことを口にする「すべてを台なし君n号(ただしnは自然数)」は,悉く燃えるゲヘナに投げ込まれ,泣いて歯ぎしりするだろう。

そして,やがて買物かごは,一貫性を欠く食材で満たされていった。

ふと中本が,魚コーナーの前で立ち止まる。

「さかなさかなさかなー さかなーをたべーるとー
 あたまあたまあたまー あたまーがよくーなるー」

こ,これは,中本お気に入りの魚のうた(仮名)。歴史に残らない名曲のひとつである。

「前回東京にいった時,買い損ねたんだよねー」

しかし今回のメニューに魚は出てこない。何故か残念な我々であった。

ちなみに全然関係ないが,この時最近お菓子コーナーは団子だらけ。おかあさんといっしょの歌にも,もっといいものがたくさんあるのに。この国の人々はいつになったら作品と商品の区別がつくようになるのだろう。当分団子なんて食べてやるものか。ふまんがぶー。

■お砂糖は少なめに

で,三度話がそれてしまったが,要するに買物を済ませた我々は,手提げ袋から頭をもたげる白ねぎの姿も凛々しく,天満橋デンジャラス基地(仮名)へと無事帰投した。

前後の段取りを勘案して,まず取り掛かったのはゼリー作りである。簡単で,見栄えがして,かつ出来上がりが想像しやすい−−−つまり,無難である−−−ということで,我々がもっとも期待しているメニューである。

分量通りに,ゼラチンや砂糖を取り分ける。

分量通り? しかし,砂糖 70g? って,いったいどうやって計るんだろう?

いきなり,厚い壁が我々の前に立ち塞がったのを感じる。しかしここは,あきらめてはいけない。

「持った感じ,大さじ山盛り一杯で 20g だよね。だいたい。」

この私も,一応昔は生物部影の被支配者としてその辣腕を振るい,薬品を調合し続けた男だ。ましてや中本は,現役バリバリの化学屋である。その我々が2人して 20g と断言したものが,そうでないはずがあろうか。いや,ある,とかいう懸念は意図的に隠蔽され,膨大な量の砂糖がボウルに計りとられた。

そして,ゼリーらしきものがついにその姿を示しはじめた。

味見すると,なんと,予想をはるかに越えた甘さ! これは食えん。

早くも失敗その1である。

しかし,その1というからには,その2とかその3とか,当然あるわけだから,ここで諦めるわけにはいかない。

中本が,レシピを注意深く確認して,あっと声を上げた。

「だーっ! これ 20g の誤植やんけ!」

なんか同じページの別のところには,確かに 20g と書いてある。そりゃ甘いはずだ。

■写真の真実

かくして約20分後には,けっこうイカしたゼリーが完成したのだが,実はここに来て新たな問題が表面化していた。

「なかはし,ゼリーにライム汁入れたか?」

「うむ。忘れた。忘れたが,入れたら絶対美味しいに違いないから,入れたことにしよう。決定。」

問題は解決した。

次に我々が取り掛かったのは,スポンジケーキである。注意深い読者の方は既にお気づきかもしれないが,実はホットケーキの材料として差し込んだ写真には,ホットケーキミックスではなくてスポンジケーキミックスが写っている。これは伊達ではない。

要するに我々は,コーラ風味のスポンジケーキを焼くことを企てたのだ。なーに簡単。卵と一緒に混ぜるだけ,あとは焼くだけ。コーラは適当なタイミングで入れてみるか,てなもんである。注意深い読者の方は,ここで既に結末を予測しておられるかもしれないが,それは後に明かそう。

■魔法の粉

ケーキ生地をオーブンに放り込むと,次に我々はタマネギスープを作りはじめた。タマネギのスライスをバターでよく炒める。狭いダイニングキッチンが,早速よい香りで満たされた。

しかし,問題はここにもあった。レシピによると,

「2 soup can of water を加える... スープ缶?

つまり,水の分量が不明なのである。確かに私も缶入りのスープは見たことがある。でもその大きさは,(少なくとも記憶の限りでは) 1種類ではない。んなものを単位にするなんて,そんな非科学的な...。これだからアメリカ人は...。

仕方無いので,とりあえず水の量は適当。ビーフブイヨン云々も,本当は水とガラから作るようになっていたのだが,面倒臭いのでペースト状のエキスで代用。ここまで来たら,調味料も適当。大丈夫,あとは食べる人のセンスでしょう。

で,なんだか甘くてしつこいのだが,結構コクのある不思議なスープができつつあった。でも惜しい。何かが足りない。

そこで冷蔵庫から登場したのが,「味覇」要するに中華スープの素だ。中本いわく,西原理恵子女史をして魔法の粉と言わしめた究極の万能調味料である。ただし,猛烈に塩辛い。

中本がこれを鍋に投入。

味は良い。でも,やっぱり塩辛い。そういう時は,水を足して出来上がり。いやほんとに,おいしくなったんだから。

ちなみに後日の学術的研究の結果,1 soup can = 11 3/4 ounce (約350ml) であることが判明。いつの日かアメリカを占領したら,尺貫法で統制してやる。

■爆裂ケーキ

やがてオーブンの中のスポンジもふっくらとしてきたように見えた。タイマーが切れるのを待って,中から取り出す。なんだかふくらみが少ないようにも思えるが,まあ素人だし,作るの初めてだし,きっとこんなもんだろう。

説明には,この後すぐにひっくり返すと,冷めた時に中央がへこまないのでよい,とある。さっそくひっくり返す。

えい。

ところが,ひっくり返した皿の上が,クリーム色の液体であふれる。言葉を失う二人。

なんと,焼けていたのは,厚さ 1cm にも満たない表面だけだったのだ。残りは全て,生地のままだ。

考えてみれば当然だ。卵以外に何も加える必要がないところへ,結構な量のコーラを無理やり足したのだから,生地の水分が多過ぎたのだ。そういえば,ケーキの材料は分量を正しく計れ,って,何かの本で読んだことがある。つまりこういうことだったのね。

で,メニューは急遽ホットケーキに変更されたのだが,まあ,結果的にはこれで良かったと思っている。負け惜しみじゃなくて,そのほうがシロップとよく合うのだ。

ただひとつ残念なことは,この劇的瞬間を写真に収めることができなかったことだ。それ程取り乱してしまったのだった。

■醤油が必要

本当はこのあとでコーラ親子丼というのも予定していたのだが,なんだかどっと疲れたのでやめる。

気をとり直して鳥肉に行こう。

これは簡単。難しいところは何もない。

でも,できあがってみると,確かにいい味なんだけど,とにかく甘い。たしかレシピには「甘辛煮」ってあったはずだけど,これではただの「甘煮」...。

で,持ち前の安直さを発揮してとりあえず醤油を加えてみると,ぐっとおいしくなった。手羽先よりももも肉の方が合うみたいだ。

たべるいちろ あとはドレッシング作りである。これは全くのいきあたりばったり。文字どおり適当に作ったら,ふたりとも結構美味しいものができてしまった。前半の苦労に比べて,終わりの方は随分とあっけない。

■まとめ

実は予想に反して,不味いものはひとつもなかった。だから試食の結果に関して多くを語る必要はないだろう。もっとも,自称「食品マゾ」の中本としては,多少不本意な一面も否めなかったようであるが。

そこで,まとめとして,ここでコーラと料理の一般的な関係について考察してみたい。

コーラを料理のための食材のひとつとして捉えた場合,そのもっとも顕著で重要な特長は「甘い」ということである。しかしコーラはただ甘いだけではなく,複数の酸味量や香料も含む「エキス」的性質も持つ。つまり,コーラは砂糖と,野菜スープを合わせたような味覚的特徴を持っているのだ。

従って,以下のような料理にコーラを使用することは,十分理に叶っていると考えられる。

  • 肉じゃが,魚の煮つけなど,甘辛い煮物
  • 親子丼,他人丼など
  • 焼き肉のたれ,とんかつソースなど
  • 照り焼き,かば焼き
  • カレー
  • スパゲティーなどに,トマトの代わりとして

早い話が,甘味の強い料理になら,だいたい使えるんじゃなかろうか。

「今回コーラの味がした料理って,ゼリーだけやったし。」

いや,だからそれを言ってはおしまいだってば。

「でもコーラが入ったことで美味しくなってるのかも。」

それは詳しく追及しない方が幸せだと思う。

まあ,これらのメニューに関しては,コーラ白書としてもいずれ挑戦してみたいと思う。でもちょっとしり込みする部分もあるかもしれない気がしなくもないので,読者諸氏にも奮闘を期待する。ただし,それによって恋人や友人を失うような事態を招いたとしても,当コーラ白書では一切関知しないので,そのつもりで。

では,健闘を祈る(?)


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