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コーラ津々浦々 / 泉大津 RED BARN編 (前編)
中本 晋輔 / 撮影 中橋 一朗

コーラ白書には時々「コーラ専門店がある」という情報が寄せられる。 しかしながらそれらは多くの場合認識の欠如による誤報であったり、 また単なるコカ・コーラの流通品を扱う店であったりして 期待を裏切られるケースが殆どである。 今回泉大津にあると聞いたときも正直あまり期待はしていなかった。 泉大津といえば急行は止まるとはいえ、 浜寺(私の住んでいるところ)よりもさらに南にある田舎町である。 特産は毛布とだんじりというこの町にコーラ専門店があるとは俄かに信じがたかった。

当初我々は 「とりあえずコーラ絡みだし、近いし、津々浦々ネタないし」 とかなり軽率な気持ちで取材に向かった。 しかしこのとき我々は、 これからアトランタのCoca-Cola博物館に匹敵する 膨大なヴィンテージを前にして言葉を失う事になろうとは 予想だにしていなかったのである。

というわけで今回は大阪・泉大津のコカ・コーラヴィンテージのお店 「RED BARN」を総力特集する。 あまりにも量が膨大なので今回紹介できるのは前半のみとなってしまったが、 それでも十分に堪能していただける事だろう。

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南海難波駅から急行に20分ほど揺られると泉大津駅に到着する。 この駅の東側はホテル「リーガロイヤル」やモールが並ぶお洒落な街なのだが、 我々が降り立ったのは昔ながらのロータリーが残る西口である。 ここから商店街を通り大津神社の脇を抜けていくと、 辺りの景色はすっかり「普通の住宅街」のものになっている。

「ヴィンテージって雰囲気じゃないなぁ」

と中橋がつぶやく。異存はない。 と、不安がる我々の前にに現れたのは、 周囲の町並みとは明らかに異質な雰囲気を持った建物だった。 「RED BARN」。 古い納屋を意味する店名だ。 古い木材をそのまま使った味のある外装には、 しかしいくつものコカ・コーラの看板が貼ってあった。 ここに間違いない。とりあえずホッとした我々の中に、新たな疑問が浮かんできた。 ここは一体何屋なんだ?

店の前いっぱいにセンスの良いガーデニングが施され、 この店がガーデニングを扱っているのはすぐに分かった。 しかしよく見ると花がプランターではなくく、 PEPSIの古いキャリアー(木箱)の寄せ植えされているではないか。 そしてその横にはさらに驚くべき光景があった。 ガーデンの一部分にさりげなくCOCA-COLAの金属製クーラーが使われているのだ。 ご存知の方も多いと思うが、 この1940-50年ごろ作られた純正のクーラーボックスは現存する数が少なく、 つまり高いのである。 それを惜しげもなくディスプレイの一部として野外に置いておくなんて・・・。

若干の嫉妬と大いなる疑問を胸に店に乗り込む我々。 今回取材に応じてくださったのはRED BARNのオーナー・福田さん。 早速店の前のガーデンについて聞いてみた。

「これはアメリカ式のジャンクガーデニングというものなんです。 でもジャンクといっても分からない方が多いので ここではアメリカンガーデニングと呼んでますけど」

ジャンクは直訳すると「廃品」のことで、 なるほど古くなった道具をうまくアレンジしてガーデンが創られている。 小綺麗なプランターを使ったイギリス風のものにくらべ 自由でのびのびした感じがするものの、 良いものを創るにはより高いセンスが要求されることだろう。 私には多分無理だ。

RED BARNは関西では珍しいアメリカンビンテージ専門店。 オーナー自らがアメリカに出向き買い付けからシッピングまで全てやっているため、 バイヤーを通す一般の輸入店より安く、 また良いものが揃っているのが特徴だ。 ちなみに内装には全てアンティーク材と呼ばれる100年以上昔の木材が使用されていて、 それが品のある重厚な雰囲気を醸し出している。 これらの木材もこの店のスタッフがアメリカで古い納屋を解体して 日本に送ったものだとか。

早速福田さんの案内で 今回の目的であるコカ・コーラグッズを拝見させてもらうことにした。 この店ではコーラグッズを現在生産されている「流通物」と オークションなどで購入する「一品物」とに明確に区別していて、 後者のほうは2階の展示室にあるという。 柔らかな木の階段を上り美しくガーデニングされたテラスを抜けると、 その奥に赤いトタン屋根の小屋があった。 重厚な木製の扉の上には COCA-COLA MUSEUM の看板が掲げられている。 ここに間違いあるまい。

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中に入って、我々は息を飲んだ。 6畳ぐらいの部屋いっぱいに Coca-Cola のビンテージグッズが所狭しと並べられているのだ。 種類も豊富で、記念ボトルやボトルケース、トレイ、文房具から自販機に至るまで、 Coca-Colaと名のつくありとあらゆる物が集められている。 その上これらのほとんどが売り物なのである。正直私は鳥肌が立ってしまったぞ。

「主人が好きで集め始めたもので、私は全然知らないんですけどね」と福田さん。 しかし話を聞いているとCoca-Colaについて非常に勉強されていることはすぐ分かった。 こっちが下手な事言うとさらりと訂正されたりするんだもん。

とにかく凄いコレクションなのだが、 中でも感心したのは収集が徹底されていることと、 アイテムの状態が非常に良いことだった。 例えばアンティークとして人気の高い輸送用の箱「ボトルキャリアー」 ( →四季報2000.4 Cola Collectibles) 1つを例にとっても、ここには木製のものから金属、プラスチックまで 歴代のキャリアーが揃っているのだ。 またキャリアーは実際に使用されていたものだけに状態の良いものは稀なのだが、 ここにあるのはまさに粒ぞろい。 特に可動部分のしっかりしたアルミ製の 6-pack キャリアーの実物を見たのは初めてで、おもわず感動してしまった。

Coca-Cola の資料の充実もなかなかで、価格本 (アメリカで出版されているアンティークの値段を書いた本) のたぐいも多数揃っていた。 また雑誌に掲載されたCoca-Colaの広告も1930年代のものから扱っている。 特に1940年代後半ものは戦争色が強くて興味深かった。

これらのコレクションのなかでも特に面白いものをいくつかピックアップしてみよう。

Coca-Cola パンツ

初代ダイアモンド缶を彷彿とさせるロゴ入りの長ズボン。 Beatlesがブームとなった70年代に作られたものらしく、 裾が若干ベルボトムになっているのが興味深い。 全体が赤と白のチェックで、赤の部分にはロゴ、 白い部分には当時のキャッチ "It's the real thing" がプリントされている。 ディスプレイ用で、これは非売品とのこと。

Coca-Cola 1937年製トレー

60年以上前に造られたCoca-Colaの販促用トレー。 この時代のトレーは非常にコレクターの中で非常に人気が高く 入手が困難なアイテムの一つである。 本品は "Running Girl" と呼ばれるバージョンで、 1913年頃から作られ始めた長方形型トレーの代表的なもの。 写真でも分かるように保存状態は抜群に良い。¥150,000

Coca-Cola 75周年記念バックル

Coca-Cola誕生75周年を記念して1961年に造られた 真鍮製のバックル。 コカ・コーラを売る馬車の絵がエンボスされており、 右上には75thのマークが入っている。 また裏側には栓抜きがついていて、 なかなか便利。¥28,000

Coca-Cola 自動販売機 "V-39"

1950年代のCokeの自動販売機の中でも最も普及したタイプで、 ボトルを最大39本格納しておけることから"V-39"と呼ばれた。 コインを入れるとボトルを固定しているロックが外れて取り出せるようになる仕組み。 Red Barnでは「動かない(壊れている)ものは扱わない」というポリシーがあって、 この自販機は今でも使用可能である。保存状態も抜群に良かった。¥560,000

Coca-Cola 100周年記念マッチ

誕生100周年を記念して86年に作られたアメリカ製のマッチ。 全体にコカ・コーラカラーの赤色で統一されている。 表には100周年の記念ロゴと "Years of Pleasure"、 裏には "Enjoy COKE" のキャッチが入っている。¥300

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「これだけの Coca-Cola Vintage が揃っているところは日本では他にないでしょうね」 と福田さんは笑うが、おそらく間違いはないだろう。 少なくとも日本コカ・コーラ本社が直々に買い付けにくる コカ・コーラのグッズショップはここ以外に聞いたことがない。 質・量ともに海外でもトップクラスで十分通用するだけのものが この部屋に詰まっている。

さらに驚いたことに福田さんのご主人が Coca-Cola Vintage を本格的に集め始めたのはほんの一昨年からとのこと。 つまりこの膨大なコレクションはたった2年で完成した計算だ。 これらのグッズのほとんどはオーナーが車でアメリカ中を回って、 途中のアンティークモールやオークションで購入したものだとか。

「車で道沿いにずっと走っていくので基本的に1度行った店には戻れません。 だから気に入ったVintageはすぐその場で買うんです」と福田さん。 まさにモノとの一期一会、 オーナーが思い入れを込めて「一品物」と呼ぶのもうなずける。 またディーラーのような第三者を通さずに 良いものだけを自分達で選んで購入していることが コレクションの高いクオリティに反映されている。 物集めは自分の足を使うに限るという格好の見本と言えるだろう。

気がつくと、 今回カメラマンに徹している中橋がカメラに新たなフィルムを装填している。 あまりのグッズの数に瞬間でフィルムを使い切ったらしい。 Coca-Cola Vintage のあまりの量と質に圧倒されている我々に、 オーナーが笑いながら言った。

「あと倉庫のほうにもグッズがかなりありますよ。 あまり整理されていないので見苦しいかもしれませんけど。」

顔を見合す中橋と私。ま、まだあるんですか。

後編(コーラ四季報 2000年10月号)へと続く...

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